高級和牛バブルは終わった? 外国人客が拍手喝采した「霜降り肉の舟盛り」 コロナ禍のこの2年、出番なし
2022/03/30 11:07

外国人客に人気のサシたっぷりの高級部位がのった和牛の舟盛り=鹿児島市の「ふぁみり庵はいから亭」与次郎本店
手のひらに収まらない大きさのサーロインやリブロースなど高級部位を1キロ以上使う。調理担当の山口浩さん(64)がサシ(脂肪交雑)のたっぷり入った肉を見栄えよく盛りつけていく。出来上がりはまるで芸術品のよう。
「舟盛りを運ぶと、外国人のお客さまは拍手喝采だった」。山口さんが誇らしそうに教えてくれた。
和牛の霜降り肉のうまさは海外の富裕層にも伝わる。「食」目当てに来日する外国人にとって、日本で和牛を食べることはステータスにさえなっている。
最低でも一盛り1万9800円の高額ながら、多い日には10件近く注文が入った。現物を見るなり、外国人客は写真を撮って、会員制交流サイト(SNS)に投稿した。
■仕入れ6割減
和牛の舟盛りはこの2年ほとんど出番がない。新型コロナウイルス感染が世界で拡大し、インバウンド需要が蒸発したためだ。
はいから亭を運営する康正産業(鹿児島市)によると、地元客が中心になった今、焼き肉の注文は価格が比較的手頃な輸入肉や国産牛ばかり。
観光営業課の松崎正人課長(42)は「倍ほどの値段の和牛は祝い事でもない限りめったに出ない」と明かす。
同社はグループ全体で年間5万人の訪日客が消え、和牛の仕入れ量はコロナ前からすると約6割減った。おのずと客単価も下がり、“和牛バブル”は崩壊した格好だ。松崎さんも「それまでの売り上げ増は完全にインバウンド効果だった」と認める。
■在庫の山
訪日客の消滅は和牛相場にも影を落とす。2020年の枝肉卸売価格は前年から約1割安くなった。特にロースやヒレといった高級部位ほど下げ幅が大きい。一方、輸出の一時停止や飲食店の営業自粛で流通は滞った。
「どこの冷凍庫も一時的に高級肉が積み上がった」。こう語るのは、牛や豚の処理加工場を県内に2カ所もつスターゼンミートプロセッサー(東京)の三好円専務(58)だ。
見かねた国は食肉卸売事業者へ保管経費を支援し、販売実績に応じた奨励金を出して在庫解消を図った。巣ごもり消費もプラスに働き、相場はひと頃よりは持ち直した。
とはいえ、まん延防止等重点措置や緊急事態宣言発出の度、荷動きが鈍り、コロナ前の水準までは戻っていない。「ハイグレードな肉は国内の需要がついてこない。できるだけ海外に仕向けることで、余剰をはかせている」と三好さん。
日本の農林水産物・食品の輸出額は昨年、初めて1兆円の大台に乗った。和牛は大きく貢献したが、外国人頼みの消費の構図は変わらない。
◇
1991年の牛肉輸入自由化を機に安い海外産に対抗すべく、和牛は霜降り重視の改良を進め、付加価値を高めてきた。最上級の肉は「A5」の名で広く浸透。日本の食品輸出をけん引する一方、庶民の食卓からは遠のいた。連載「翔べ和牛」第3部では、ギャップにもがく生産・流通の現場を追う。
(連載【翔べ和牛 第3部 A5神話】より)
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