一家に1台の時代が来る? 3Dプリンターで作る「霜降り培養肉」 脂肪、赤身…好みの分量「テーラーメードの肉も可能」

 2022/05/08 11:07
大阪大学の松崎典弥教授らが作った霜降りを再現した培養肉
大阪大学の松崎典弥教授らが作った霜降りを再現した培養肉
 生きた牛の命をいただき、食料とする。このような従来の概念が変わるかもしれない-。

 一つの街のように研究棟がひしめく大阪大学吹田キャンパス。工学研究科の松崎典弥教授(45)の案内で、ある実験室を訪ねた。

 顕微鏡や3Dバイオプリンターなどの機材が並ぶ作業台の片隅に、小さな赤い塊が入ったシャーレが置かれていた。もしやと思い、近づいてのぞき込む。小豆大の塊は湿り気を帯び、所々筋状の白い部位が見えた。

 「これが培養肉です」。松崎教授が説明した。

 この小さな“肉片”こそが最先端技術の結晶。和牛の細胞を増やして作り上げた人工の“霜降り肉”だ。

■テーラーメード

 松崎教授は昨年8月、霜降り肉の再現に成功したと発表した。もとになるのは牛肉から抽出した筋肉と脂肪の幹細胞だ。これらを培養し、3Dプリンターで直径約0.5ミリの筋、脂肪、血管の線維を形成。3種類の線維計72本を、霜降り肉のサシ(脂肪交雑)や赤身の配置を模した設計図を頼りに手作業で束ねた。

 培養肉の研究は、世界的な人口増加による食肉需要の高まりや畜産の環境負荷などを背景に、各国で進められている。

 現状は筋線維のみを集めたミンチ状が主流。肉の複雑な組織構造の再現は難易度が高く、ほとんど例がないという。

 「食べるにはミンチ状で問題ない。でも、最終的に病気やけがをしたときに移植できるようにしたい」。医療への応用を念頭に置く松崎教授は、肉の組織構造の再現にこだわる。

 現在、培養から立体構造の形成まで自動化した装置の開発を、島津製作所(京都市)などと進めている。2025年の大阪・関西万博で、培養和牛肉を来場者に提供することが目標だ。

 「一家に1台装置があり、好みや体調に合わせて脂肪や赤身の量を調整するテーラーメードの肉も可能」。そんな未来を思い描く。

■試食可能に

 同じく培養ステーキ肉の研究に力を注ぐのが、東京大学の竹内昌治教授(49)や日清食品ホールディングス(東京)のグループだ。

 こちらは今年3月、食用の培養肉作製を国内で初めて成し遂げた。縦4.5センチ、横2センチ、厚さ1ミリの肉を作り、2分間ゆでて試食。主に筋線維のみで構成され、鉄分や脂肪などは含んでいないが「意外とかみ応えがあり、うまみが感じられた」(竹内教授)という。

 19年には培養細胞をゲルに混ぜ、シート状にしたものを何層も重ねる方法で、世界で初めてサイコロステーキ状の肉の作製に成功していた。実際に試食して味を評価できるようになったのは大きな前進だ。25年までに100グラム程度の培養ステーキ肉の実現を目指す。

 わずかな細胞から肉を量産するという、SFのような話が現実になろうとしている。竹内教授は、こう語る。「培養肉は来たるべき将来を見据えた一つの選択肢。技術の押し売りではなく、丁寧に食文化を醸成していきたい」



 世界では人口増加が進み、将来の食料危機への備えが課題となっている。大量の水や穀物を必要とする牛肉生産は、効率の悪さが指摘され、温暖化による気候変動対策の面からも風当たりが強まっている。いかに効率よく、環境に配慮した生産ができるか。連載「翔べ和牛」第4部では、持続可能性に挑む研究者や生産者の取り組みを紹介する。

(連載【翔べ和牛 第4部 地球と歩む】より)