牛が地球温暖化の要因? 総排出量の1%なのに…「牛を悪者にしない」 温室効果ガス排出削減へ、畜産農家の取り組みが始まった

 2022/05/10 11:07
ふん尿由来の温室効果ガス排出削減に有効な餌で育てている牛=4月27日、栃木県大田原市の前田牧場
ふん尿由来の温室効果ガス排出削減に有効な餌で育てている牛=4月27日、栃木県大田原市の前田牧場
 「急に牛がたたかれるようになってしまった」。栃木県大田原市でホルスタインを肥育する前田牧場の齋藤順子さん(50)は、悲しげな表情を浮かべた。

 風当たりが強まった理由の一つが、気候変動への関心の高まりだ。

 牛の生産現場では、げっぷやふん尿の処理過程でメタンや一酸化二窒素(N₂O)が生じる。温室効果はそれぞれ二酸化炭素の25倍と300倍だ。国内の温室効果ガス総排出量に対して畜産関連が占める割合は約1%にすぎない。しかし、世界的には地球温暖化の要因として認知されている。

 同社は牛のふん尿のたい肥化や粗飼料の自給など、環境負荷の低減に力を注いできた。2020年、農研機構から実証試験の協力を持ち掛けられた。ふん尿由来のN₂O排出削減に有効な餌を研究しているという。

 「少しでもやれることをしたい」。迷わず受け入れ、昨年から正式に餌を導入した。現在、約2000頭のうち400頭弱をこの餌で肥育している。

■アミノ酸を調整

 牛舎で餌を見せてもらった。一見、細かく砕いた穀物を混ぜたごく普通の飼料。特別変わった原料を使っているわけでもない。

 齋藤さんによると、体内で利用されない余剰アミノ酸が分解されて生じた窒素が、N₂Oのもとになる。タンパク質含量の多い大豆かすの一部をトウモロコシに変え、サプリメントのようなものでアミノ酸バランスを整えることで、余剰アミノ酸を減らせるという。

 従来の餌と比べても、肉質や枝肉重量への影響はほとんどない。農研機構の試験では、ふん尿中の窒素が15%以上減り、たい肥化処理による温室効果ガス排出量はほぼ半減した。

 昨年4月、試験で生産した肉のうち約20キロを販売してみた。購買者からは「肉を食べると、地球環境に悪いことをしているようで肩身が狭かったのでうれしい」との声が寄せられたという。

■悪者にしない

 牛の生産を巡っては、各国が温暖化対策に乗り出している。

 米国では、生産工程で生じる温室効果ガスを削減した牛肉に「低炭素牛」の認証を与える制度を政府が承認した。豪州では、メタンの発生抑制に効果的な海藻を使った飼料の研究開発が進む。

 こうした動きに、日本の畜産関係者も危機感を強めている。牛のメタン産生抑制を研究する農研機構乳牛精密栄養管理グループの鈴木知之グループ長補佐(51)は、「対策をとらなければ今後、牛肉を輸入してもらえなくなる恐れもある」と指摘する。

 前田牧場は、農研機構の餌で育てた牛肉を「地球にやさしいお肉。」と名付けた。肉にちなんだ今年の4月29日、本格販売を始めた。「牛を悪者にしないためにも、工夫して、少しでも環境に優しい飼い方をしたお肉を提供したい」。齋藤さんは力を込めた。

(連載【翔べ和牛 第4部 地球と歩む】より)