持続可能な環境に優しい畜産 どう「見える化」 第三者認証GAPに挑戦する理由

 2022/05/11 11:00
前田好宏さんの農場で使う自給粗飼料=出水市上大川内
前田好宏さんの農場で使う自給粗飼料=出水市上大川内
 5月上旬、出水市で子牛生産から肥育まで手掛ける一貫農家、前田好宏さん(61)のもとを訪れると、牛舎の脇にビニールでラッピングされた巨大な白い塊が幾つも積み上げられていた。中に入っているのは、主に繁殖用の母牛180頭に食べさせる粗飼料だ。一つにつき230キロ。これを1日に5個は使うという。

 7年前に肥育専業から一貫経営に転換し、頭数が大きく増えた。課題となったのが、自給飼料の確保と排せつ物処理。前田さんは、減反した近隣の米農家約20戸に飼料用作物を作ってもらい、排せつ物を堆肥化して土壌還元することで解決を図ってきた。

 米や野菜などの耕種農家との間で資源を循環させる耕畜連携は、飼料自給率を向上させるだけでなく、環境にも優しい。持続可能性が社会のキーワードになりつつある中、自分たちの取り組みをどう対外的に発信するか。たどり着いた答えが生産工程管理の第三者認証「GAP」だった。

■人と地球と

 GAPは、生産から出荷までの工程を記録し「見える化」している農場を認証する仕組み。日本版(JGAP)の総合規則は冒頭で「人間と地球と利潤の間に矛盾のない農業生産の確立を目指す」とうたい、この理念に沿った農場経営が求められる。

 家畜・畜産物のJGAPは2017年、青果物に10年遅れて追加された。後押ししたのは、3年後に迫っていた東京五輪・パラリンピック。持続可能性を掲げ、選手村向けの食材にはGAP認証が必要とされていた。

 審査項目は飼養衛生、環境保全、動物福祉など多岐にわたるが、日本GAP協会(東京)の荻野宏専務(58)は「農畜産業は自然を土台に成り立っている。一見環境とは関係ないような項目も副次的な効果を生む」と説明する。

 例えば「生産計画の立案」「責任者・教育訓練」の徹底は、牛づくりに必要な飼料や水の給与量改善につながるかもしれない。農場内で「地域社会との共生」の意識が高まれば、堆肥の循環利用促進が期待できるといった具合だ。

■出発点

 2年の準備を経て、前田さんの農場は昨年3月、JGAP認証を受けた。県内の個人農場では初めてのケースだった。

 「従業員に自信と責任感が生まれたように感じる。『こうした方がいい』と意見をぶつけてくることもあるよ」。こう言って笑う前田さんだが、認証がゴールだとは思っていない。むしろ「ここからがスタートになる」という。

 GAPの「見える化」は出荷先や消費者だけに向けられたものではない。農場側にも持続可能な生産への課題が見えやすくなる。それは「よりよい農場」づくり、つまり「環境に優しい畜産」を加速させる。

 「認証されたからといって、すぐに価格に反映されたり、販路が広がったりするわけじゃない。でも、これからの畜産には必要な取り組み。挑戦して間違いはなかった」。そう確信している。

(連載【翔べ和牛 第4部 地球と歩む】より)