鉄人は「おらんなぁ…」とつぶやいた 87歳現役の素潜り漁師が感じる海の変化 かつて特産のトコブシはどこへ

 2022/06/07 21:10
採ったトコブシを船上で確認する押川登さん=1日、西之表市の馬毛島沿岸
採ったトコブシを船上で確認する押川登さん=1日、西之表市の馬毛島沿岸
 種子島特産のトコブシ(ナガラメ)漁で「鉄人」と呼ばれる漁師がいる。鹿児島県西之表市西之表の押川登さん(87)。半世紀以上、大物が潜む馬毛島の海を素潜りし、変化を目の当たりにしてきた。「藻がなかなぁ」「岩も白くて貝が付かん」。島で漁をする約60人中、最年長の押川さんには、さみしさと悲しみがにじむ。

 漁解禁日の1日、ウエットスーツに6キロの重り、フィンとゴーグルを着けて飛び込んだ。漁場は島南東部。水深2~5メートルの浅瀬をすいすい泳いでいく。トコブシがすみ着きそうな岩を見つけると一気に潜水。ひっくり返したり、鉄の棒で隙間をかき出したりした。

 「おらんなぁ」。海面に浮上するたびに首をかしげる。かつて3時間で100キロ以上採ったこともあるという「宝の島」。初日は休みなしで約2時間泳ぎ回り、水揚げしたのは35個、重さにして3キロ程度だった。

 同市住吉の漁師一家に生まれた。父の後を追い、1950年代半ば、20代前半で馬毛島へ移住した。トビウオ漁で島が潤っていた。

 押川さんら若手は魚を網に追い込む役を任され、寒さが身にしみる5月から早朝の海にふんどし一枚で連日入った。「先輩たちが『潜れ潜れ』と船に上げてくれなかった」。水深20メートル近くまで素潜りする当時の“スパルタ教育”が、8月に米寿を迎えても漁を続けられる体力を培った。

 トコブシが高値で取引されるようになったのは30代の頃。簡単に両手で抱えきれないほど採れたが、ここ十数年で海の異変が目につくように。餌になる藻が減り、磯焼けで白く変色した岩が転がっていた。温暖化の進展や、島を所有していた民間業者の大規模開発の影響という声は少なくない。

 市などは漁場保全で2005年から稚貝を放流しているが、「貝が付く(育つ)ところがなかなぁ」と力ない。1000キロを優に超えていた馬毛島産トコブシの漁獲量は昨年、716キロまで落ち込んだ。細りつつある海を見ながら「これじゃあ若い衆がかわいそうだ」と嘆く。

 今年の漁期は8月12日まで。馬毛島は米軍機訓練移転と自衛隊基地整備が計画され、防衛省が本年度中の着工を目指す。トコブシの主要漁場が広がる島東岸には、大規模な港湾施設や揚陸施設が予定されている。