鹿児島が「和牛王国」であり続けるには? 高齢化が進み離農が続出…鍵は子牛生産の分業化にあった
2022/06/24 11:05

ベルトコンベヤーで運ばれる飼料。これから袋詰めする=鹿屋市串良のTMRセンター
センターは2011年、JAと県経済連が連携した大規模繁殖分業方式モデル事業を支える施設として整備された。子会社のきもつき大地ファーム(同市)で飼う母牛約1800頭の胃袋を満たす。
原料となる牧草は主に粗飼料生産部会が担当。生まれてきた子牛を市場出荷まで育てるのは、県経済連の肉用牛哺育(ほいく)・育成センターの仕事になる。
繁殖と肥育の分業が確立されている和牛の世界でも、子牛づくりで役割分担するケースは珍しい。事業導入の背景には、「和牛王国」の礎をなす子牛生産基盤の脆弱(ぜいじゃく)化があった。
■市場の1割弱
鹿屋市を中心とした肝属地区は、全国有数の和牛産地だ。しかし、センター設立当時、高齢化した小規模農家の離農が止まらず母牛頭数も減り始めていた。一般に繁殖農家は粗飼料生産から出産管理、子牛の世話までこなす。農家の負担を考えれば、少頭飼いの高齢者を主体とした従来型の生産だけでは限界だった。
いかにして大規模経営体を育成するか。その答えが分業化だった。畜産戦略事業課の末吉雄一課長(44)は「子牛生産の工程を独立させることで従業員が作業に専念できるようになり、より多くの頭数管理が可能になった」と説明する。
牛の発情や体調などを管理するICT(情報通信技術)機器も先行して取り入れたことで成績は向上。334頭からスタートした子牛出荷は今、1500頭前後まで膨らみ、肝属中央家畜市場に上場される子牛の1割弱を占める。
「一連の取り組みを通じて多頭飼育の方法やICTの有効性が普及し、一般農家の増頭も進んだ」と末吉さん。子牛価格の高騰も相まって、17年以降、管内の母牛は増加傾向に転じた。
■バトンタッチ
事業は後継者育成の場にもなっている。県立農業大学校の卒業生を積極的に採用して技術研さんを後押ししており、これまでに数人が独立して牛飼いの道を歩んでいる。
錦江町の上鶴祐貴さん(23)もその一人だ。きもつき大地ファームで3年間働き、昨年末に母牛200頭を飼う実家で就農した。
「(ファームでは)何でもトライさせてくれた。失敗も多かったが先輩方の助けをもらいながら経験を積ませてもらった」。牛の出産にも数多く立ち会い、今はトラブルが起きても臨機応変に対応できる。人工授精師の資格もファームで取得した。
いずれは350頭ほどに増頭するつもりだという。「同級生にも大きな農家が多い。自分も負けられない」と力強い。地域の生産力維持を目指したJAの取り組みは、次世代の基盤づくりに確実につながっていた。
10年後、20年後も鹿児島が「和牛王国」であり続けるためのヒントを、県内外の事例をもとに探る。
(連載【翔べ和牛 最終部 持続への挑戦】より)
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