生産コストが高い和牛…ならば肥育期間を短縮しよう 鹿児島で研究が始まった「もうかる牛」は救世主になれるのか

 2022/06/28 11:00
鹿児島県畜産試験場から7月に出荷される牛。生年月日欄には「令和2年7月26日」とある=14日、霧島市
鹿児島県畜産試験場から7月に出荷される牛。生年月日欄には「令和2年7月26日」とある=14日、霧島市
 「これが来月出荷する予定の牛です。どうです、立派なものでしょう」。6月中旬、鹿児島県畜産試験場(霧島市)。肉用牛研究室長を務める川畑健次さん(55)が指し示す先には、確かに堂々たる体格の和牛がいた。

 一見すると、一般農家で飼われているものと変わらない。違うのは、この牛がまだ2歳になっていないという点だ。

 肥育農家は通常、家畜市場から生後9カ月前後の子牛を仕入れ、さらに20カ月かけて肉牛に仕上げる。試験場の牛は飼養期間が半年近く短い。

 「ここで肥育されている約30頭は全て短期肥育試験の対象。出荷までの期間が短ければ、それだけ牛の回転率が上がり、生産性が高まる」と川畑さん。ほかの品目より生産コストが高く、利益率が低い和牛経営の構造改善が試験の狙いだ。

■ハードル

 肥育期間の短縮は決して新しい課題ではない。県は牛肉輸入が自由化された1991年以降、サシ(脂肪交雑)が入りやすい種牛改良と併せ、コスト削減による「もうかる牛」づくりにも挑んできた。

 97年には18カ月肥育のやり方をまとめたマニュアルを刊行。その後も試行錯誤を繰り返し、「さらに3カ月早く出荷しても、サシの入り具合など主な指標で通常肥育に引けを取らない牛がつくれるようになった」(川畑さん)という。

 短期肥育を実践すれば、年間の出荷頭数が約2割増えるほか、1頭仕上げるのに必要な労働力を低減できるため、人件費を含めた固定費も抑えられるという。JA県経済連も今年5月から直営農場で短期肥育の実証事業を始めており、取り組みは広がりつつあるように見える。

 だが、生産・流通現場では「長く飼うほどサシが入り、肉質がよくなる」との考えが根強い。例えば、国内トップブランドの松阪牛は生後30カ月以上飼うことを認定条件にしている。

 試験場での研究成果がそのまま現場で再現できるとも限らない。県経済連肉用牛課の大里和弘課長(49)は「一般的に肥育期間が短いと、肉の締まりが足りず、水っぽさが残りがちになる。枝肉重量も取れにくくなり採算に影響する」とハードルの高さを認める。

■多様な産地へ

 生産・流通上の壁があるにも関わらず、県経済連が実証事業に踏み切ったのは「多様化する消費者ニーズに対応していく必要がある」と考えているからだ。

 従来、高級な霜降り肉を目指して改良されてきた和牛。一方で大里課長は「そこまでのサシを求めていない消費者がいることも確か」と指摘する。実証では、給餌量を減らすなどしてサシを抑え、通常肥育では利益を出しづらいとされる4等級の生産を目指すという。

 短期肥育牛は果たして市場でも評価される「もうかる牛」になれるのか-。実証事業の結果が出るには年単位の時間がかかる。しかし、消費者が「ほどよいサシ」を求める以上、4等級でも稼げるコスト構造の追求は止められない。

 高級路線にも赤身志向にも対応できる多様な産地。それこそが「王国」の名乗りにふさわしい姿といえる。=おわり=

 (連載【翔べ和牛 最終部 持続への挑戦】より)