種子島 ゆっくり刻むリズム…新海誠監督「秒速5センチメートル コスモナウト」(2007年公開)の世界
2022/11/11 12:34

最高の波を求め、中山海岸に集まる種子島中央高校のサーフィン部員。島では多くの若者がサーフィンを楽しむ=中種子町野間
◇◇◇
鹿児島県本土から南へ40キロ。太平洋を望む種子島の中山海岸を白波が洗う。10月中旬というのに汗ばむ陽気。「いい波来るかなあ」。種子島中央高校のサーフィン部5人は夕日に光る水平線を見つめ、ボードを抱えて波打ち際に駆け出した。
海岸線が長い全国有数のサーフスポットには島外からサーファーが多く移り住み、地元の中高生も波乗りを楽しむ。海のない長野県出身の新海誠監督(37)が最も印象に残った風景という。
アニメ映画「秒速5センチメートル」は、男女の心の距離を繊細に描写。3部構成の第2部「コスモナウト」は、東京から転校してきた貴樹に思いを寄せる女子高生サーファー、花苗の揺れる心情を描く。波に乗れたら告白しよう―。そう胸に秘め、海と格闘する。
映画は速度にこだわった。秒速5センチメートルは、桜の花びらが舞い落ちる速さ。「日本で一番宇宙に近い島」を舞台にしたのも、音速を超す速さで漆黒の宇宙へ突き進むロケットを盛り込むため。不安な思いを抱えながら、貴樹へ真っすぐ恋心を向ける花苗と重なる。
取材で通算1カ月を過ごした新海監督は、島のさまざまな表情に出合った。南北に延々と続く海岸線、平たんな島をなでるような海風にそよぐサトウキビ畑…。ゆっくり刻むリズムがあった。
島の中央部の中種子町でハンバーガー店・ステッピンライオンを営む米澤龍二さん(37)は11年前、自動車販売会社を辞め福岡市から移住した。「サーフィンの帰りに見る夕日は何ともいえない。毎日、自然を味わい、自由に波に乗れる。ここで暮らせて、すごく幸せ」。日焼け顔をほころばせた。
島独特のリズムは作品の随所に表れる。船から陸揚げされた巨大なロケットを幅の狭い道路で運ぶため時速5キロで進む輸送車や、サトウキビ畑の間を疾走する通学バイクなど、緩急のスピード感がアクセントをつける。
2007年の公開後、「聖地巡礼」と称したファンが島を訪れる。映画に登場するコンビニエンスストア・アイショップ石堂大平店(中種子町)の「巡礼ノート」にこうあった。
「韓国から来ました。秒速に引かれて種子島と縁ができました」「ただこの島に来たくて一週間有休取ってきました 静岡より」
「秒速」の風はいまも静かに吹き渡る。
■メモ/主人公の恋つづる3部構成
主人公遠野貴樹と篠原明里の幼い恋心を描く「桜花抄」、種子島に転校してきた貴樹を、同級生の澄田花苗の視点から描いた「コスモナウト」、大人になった貴樹のくすぶる思いをつづる「秒速5センチメートル」の3部構成。「雲のむこう、約束の場所」で第59回毎日映画コンクールアニメーション映画賞を受賞した新海誠監督が脚本も手掛けた。
種子島は鹿児島空港から飛行機で約30分、鹿児島港から高速船で約1時間半。
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