日当2万円、月収70万円以上…馬毛島工事に引き抜かれる種子島の農業関係者。地域に生まれるひずみ。「こんなはずじゃなかった」。賛成派団体会長だった男性は悔やむ
2023/01/23 10:57
多くの作業員を受け入れられるよう、馬毛島の葉山港(左上)近くに建てられた宿舎=12日、西之表市(本社チャーター機から撮影)
インターネットで「馬毛島 求人」と検索すると、西之表市馬毛島で始まった自衛隊基地工事関連の募集が次々と出てくる。多くは日当2万円前後。月収70万円以上という職種もある。
離島で人が集まりにくいため、有資格者や経験者の相場は九州本土の倍近いとされる。人手不足の中、目立ち始めたのが種子島の農業関係者の引き抜きだ。
西之表市の70代の農家は「自分らが出す日当の2倍3倍ともなれば、そりゃ人も流れる」。触手は農協にも伸び、幹部は「工事関係に転職した職員がいる。OBを再雇用して穴を埋めるしかない」と力なく語る。
温暖な種子島は安納いもやサトウキビに限らず「何でも作れる」といわれるが、働き手や後継者不足は他の地域と変わらない。人材の草刈り場となれば、産業の維持に深刻な影響を及ぼす。農家からは「農林族の地元選出国会議員はこの状況をどう考えているのか」との声も上がる。
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一方、島内では給与を上げる建設業者が増えているという。関係者は「他社に人材を取られないためだ」と明かす。囲い込んだ従業員を養うため、基地完成後は大手が幅広く仕事に手を出すようになり、体力のない中小は倒産するのでは、といった指摘もある。
「こんなはずじゃなかった」。昨年7月まで計画賛成派の政治団体で会長を務めた折口金吉さん(71)は漏らす。「活性化のために1日も早い着工を」と訴えてきたが、地域にひずみを生む形になった。「業者と市民が交流するなど『顔の見える工事』が理想。そんな準備の時間はなかった」と悔やむ。
「資機材や人員が出払ったら、種子島での災害に対処できない」「限られた医療資源で作業員まで受け入れられるのか」。不安を抱く市民は少なくない。
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地元の西之表市長が基地計画の賛否判断を先送りする中、先に容認した県の動きは乏しい。塩田康一知事は昨年11月の表明時、理由の一つに「受け入れ態勢の準備」を挙げた。しかし、着工までの1カ月余で整えたのは、公共工事では当然の業者や関係機関の「連絡網」だけだ。
知事は今月20日の定例会見で、工事に伴う事件・事故など緊急時の対応を問われ、「これからしっかり協議する必要がある」と述べるにとどめた。県総合政策課も「ケース・バイ・ケースで対処したい」とする。準備不足は明らかだ。
地元理解も不十分なまま「日米同盟強化」の名の下で動き出した馬毛島の基地計画。米軍機や自衛隊の訓練が年中行われ、中国などをにらむ南西防衛の一大拠点となる。緊張をかえって高めないか。島の暮らしは良くなるのか。ジレンマを抱えた巨大工事は急ピッチで進んでいる。
=おわり=
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