自衛隊の元陸将は、鹿児島が「対中国で最も注目されている」と言う 奄美、馬毛島、鹿屋…最前線化は進むが、国民保護計画は途上
2023/03/06 08:32

奄美の部隊を訪問後、12式地対艦誘導弾(左)などを背景に会見で握手を交わす陸自と米太平洋陸軍のトップ=2022年9月8日、奄美市名瀬
反撃能力を担う「12式地対艦誘導弾」の能力向上・地上発射型は2025年度の開発完了を目指すとした。現行の12式は陸上自衛隊瀬戸内分屯地(瀬戸内町)にあり、引き続き配備が有力視されている。奄美駐屯地(奄美市)に置かれる中距離地対空誘導弾の改良も明記した。
南西防衛の下地を築き、国家安全保障局顧問を務めた元陸将の番匠幸一郎さん=鹿児島市出身=は3文書改定を「抑止力を高める」と評価した上で、「離島だけでなく、本土を含めた総合的な強化が重要」と指摘する。
反撃能力は日本単独では持てず、日米の連携に加えて情報、監視、偵察能力の強化が欠かせない。弾薬庫も全く足りていないとみる。「鹿児島で対中国の新たな動きが続いている。世界で最も注目されているエリアだ」と話す。
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4年前、奄美に陸自施設が開設し、鹿児島は陸海空の強力な部隊がそろう全国有数の拠点となった。中国などの通信を解析する情報本部の通称「象のオリ」(喜界島)、ミサイル防衛の要の空自レーダー(下甑島)もある。
鹿屋には米軍無人機部隊が一時展開中。工事が進む西之表市馬毛島の自衛隊基地は、米軍空母艦載機の訓練地として米空母の運用を支える。
最前線化は攻撃リスクと表裏一体だが、住民避難など国民保護計画は全くの途上だ。県は内閣府とともに、屋久島の住民避難を通じ課題を洗い出しているものの、想定は「屋久島1島だけ」の避難にとどまる。
取り沙汰される台湾有事では台湾、沖縄、奄美の避難者も鹿児島県本土へ向かう見通しだが、受け入れとセットの計画は手付かずのままとなっている。
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有事の際は、原発やネットワークなどへのサイバー攻撃や情報戦を交えた「ハイブリッド戦」が想定される。ただ、軍事的装備に比べ、暮らしに近いリスクの議論は遅れている。
琉球大の山本章子准教授(国際政治史)は安保3文書改定について「全面戦争的な話が先行する一方、民間の被害は無視。課題を詰めていくと、部隊が国民を守れないことは明らかだ」と指摘。反撃能力も「日米とも国民に戦う意思はなく、世論の支えのない抑止は極めてもろい。現実的な足元のリスクから議論を積み上げないと、安全保障は成り立たない」と強調する。
戦後初めて他国への「矛」を持とうとする日本。一翼を担う鹿児島にその覚悟はあるか。国主導で変わりゆく奄美の島々は問いかけている。
=おわり=
(連載「盾から矛へ 安保激変@奄美」8回目より)
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