61年間「ごちそうさまでした」 鹿児島市役所の地下食堂10日閉店 「創業の味」惜しんで長い列

 2023/03/09 11:50
「お客様、従業員、いろんな人の支えで続けてこられた」と感謝する地下食堂店主の西元美貴子さん(右から2人目)=8日、鹿児島市役所
「お客様、従業員、いろんな人の支えで続けてこられた」と感謝する地下食堂店主の西元美貴子さん(右から2人目)=8日、鹿児島市役所
 鹿児島市役所の地下食堂は10日、61年の歴史に幕を下ろす。市職員だけでなく、一般の人も利用でき、手作りのぬくもりと明るい接客で多くの利用者の胃袋と心を満たしてきた。閉店を知った多くのなじみ客が訪れ、別れを惜しんでいる。

 8日も午前11時過ぎから数十人の行列ができた。マイナンバーカード取得のついでに訪れたという西陵7丁目の冨谷陽子さん(79)はちゃんぽんを注文。「食堂の近くに勤務していた時は、友人とよく訪れていた。昔ながらの味と人の温かさが伝わる場所。なくなるのはさみしい」と惜しんだ。

 食堂は1962(昭和37)年1月に西元常秀さん=享年72歳=が市職員厚生会の委託を受け始めた。2代目として娘の美貴子さん(61)が84年に引き継いだ。人気メニューはちゃんぽん(550円)とカツ丼(530円)で、どちらも創業当時の常秀さんの味を守ってきた。

 美貴子さんは創業日の10日前に生まれ、食堂と共に育った。「72年の太陽国体の時だった。仕出し弁当の発注があり、両親と従業員が徹夜で作業し、大量の弁当箱を積み上げていたことは今でも鮮明に思い出せる」と振り返る。

 だがここ数年は、新型コロナ禍や物価高騰が経営を直撃。「自身の給料を諦める月もあった。母が元気なうちに親孝行したい気持ちもあった」と昨年9月に厚生会へ閉店を申し出た。当面は母美保子さん(86)とコンサートや旅行に出るなどして過ごすつもりだ。

 在庁時は必ず食堂のさくら弁当(430円)を注文している松山芳英副市長は「ここまで健康でいられたのは地下食堂のおかげ。これからはご自身と家族の時を大切に過ごしてほしい」とエールを送った。

 市職員課厚生係によると、閉店後は後継の委託業者を探し、引き続き食堂として運営する予定だという。