中学入学後すぐ食欲不振、酸欠…診断結果は「マスク着用が難しい体質」 白い目に苦しみ不登校に、体も限界を迎えた

 2023/03/28 11:00
屋久島町教育委員会が作成したマスク差別防止ポスターについて話す親子=屋久島町(画像は一部加工してあります)
屋久島町教育委員会が作成したマスク差別防止ポスターについて話す親子=屋久島町(画像は一部加工してあります)
 「学校に行きたくない」。鹿児島県屋久島町の中学1年男子生徒(13)が口にしたのは、入学して間もない2022年4月末だった。食欲不振が続き酸欠のような症状で倒れることもあったため、島内外で複数の病院を受診。母親(41)は「新しい環境に慣れないためと思っていた」。診察の結果、体質的にマスク着用が難しかったのに、新型コロナウイルス対策で着用し続けたのが原因と分かった。

 タートルネックなど肌に密着するものが苦手という男子生徒。県内で感染が初確認された20年3月以降、小学校でもマスク着用は求められたが「苦しければ外していた。特に厳しく言われなかった」。6年間は一度も休まず登校した。

 状況が変わったのは、町内で感染が拡大した22年2月以降。中学校では、着用を強いる声が強まったように感じた。マスクから鼻を出すと「仲のいい友達にも注意された」。無理して着用を続け、心身共に限界を迎え通学できなくなった。

 国は当時、体育や部活動など熱中症の危険がある場合を除き、屋内で2メートル以上距離が取れない場合は着用を推奨していた。

 学校へ診断書を提出したが、基礎疾患を持つ生徒もいてマスク無しの登校は認められず、苦しくなったら人から距離を取って外すように、と言われた。「学校に行けばマスクを着けないといけない」。結局、夏休み前から不登校状態になり、1学期の最後は町内のフリースクールに通った。

 県教育委員会によると、新型コロナへの感染不安などから公立小中高校で30日以上欠席した県内の児童生徒は20年度115人、21年度は346人。ただ男子生徒のように、感染不安以外のマスク着用に関する理由で長期間欠席した児童生徒数の調査は行っていない。

 22年9月上旬、母親は県や町にマスク着用を“強要”しないよう要望した。町教育委員会は翌10月、「マスクができる子もできない子もいる」と訴える児童生徒向けポスターを作成し、町内の全小中学校に配った。母親は「ポスターのおかげで子どもたちの意識が変わり、着用を注意し合う場面も減った」と話す。

 2学期は毎日登校できていた男子生徒だったが、10月下旬に突然猛烈な眠気に襲われ20時間以上寝たままの日が約1週間続いた。父親(37)は「マスクの着け外しを調節でき大丈夫と話していたが、体は限界だったのだろう」と思いやる。

 その後体調は徐々に回復。話し合いの末にマスク無しの登校も認められ、冬休み直前に学校へ戻れた。初めは周囲の視線が気になったが「今は注意されたり見られたりすることはほとんどない」(男子生徒)。

 文部科学省は2月、4月以降の学校現場でマスク着用を求めないと通知した。男子生徒は「やっとか」と表情を緩める。一方で両親は不安が拭えない。「今度はマスクを外せない子どもへ白い目が向けられるのでは」。学校は子どもすべてが安心して過ごせる場所であってほしい。両親は願い続ける。

(連載「かごしまコロナ 揺れた3年」より)