「罪人扱いよね」 クラスターが出た飲食店主はつぶやいた ネットにあふれたデマや中傷…あの頃は新型コロナへの恐怖感が漂っていた
2023/03/29 11:05

夫婦で中華料理店を切り盛りし47年目になる岩松和近さん、良子さん=2日、鹿屋市大姶良町
のどかな田舎町に自宅兼店舗を構えて47年目。夫婦で切り盛りするアットホームな雰囲気の大衆食堂も、新型コロナウイルス禍で「どん底」を味わった。
飲食業は、マスクなしの飲食や会話で感染リスクが高まるとして、当初から憂き目を見てきた。緊急事態宣言やまん延防止等重点措置による営業制限が繰り返され、全国的に市場規模は縮小した。いわまつも度々休業を余儀なくされた上に、宴会需要はほぼ皆無。まれに予約が入っても感染リスクを考えて断っていて、売り上げは激減した。
2020年12月に店で発生したクラスター(感染者集団)は、そんな夫婦を追い込んだ。地域の奉仕作業の慰労会で、和近さんを含む参加者10人全員とその家族ら計40人超に感染が拡大した。県内で確認されたクラスター232件のうち15件目だった。
慰労会は身内同然の地域住民の集まりということもあり、特別に受け入れた貸し切りの会食だった。感染が発覚したのは5日ほど後。「他のお客さんに万一があってはならない」。批判を覚悟の上で店名公表に踏み切ったが、風当たりは想像よりはるかに強かった。
当時の県内の感染者数はまだ千人未満。世間には新型コロナへの激しい恐怖感が漂っていた。新聞では店名や住民の反応が大きく報じられ、周囲から非難された。さらに、ネットにはデマや誹謗(ひぼう)中傷があふれ、店への嫌がらせも相次いだ。明るかった良子さんはふさぎ込み、自殺したとのうわさまで流れた。「罪人扱いよね」。和近さんは悲しげにつぶやく。
今は第8波も落ち着きを見せ、日常を取り戻しつつある。いわまつでも昼間の客足は徐々に戻ってきたが、売り上げはコロナ前の3分の1にも満たない。夫婦は「宴会の習慣そのものがなくなっている。コロナ前のようにはもう戻らない」と声をそろえる。
コロナ禍の3年、県内では年間500件前後の企業が休廃業した。うち飲食業を含むサービス業は最多の約3割を占める。最近は物価高騰が追い打ちをかけ、いわまつでも仕入れ値が倍増した。良子さんは「うちは従業員がいなくて家賃の支払いもないからまだまし。店を閉めた人もたくさんいた」とおもんぱかる。
経営は火の車だが、何とかやり繰りして味も量も創業当時から変えず、値段も30年以上据え置いている。「コロナ禍でも足を運び、励ましてくれたお客さんもいた。恩返しのためにも、店をたたむわけにはいかない」。夫婦二人三脚で、のれんを守り続けるつもりだ。
(連載「かごしまコロナ 揺れた3年」より)
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