街の老舗パン屋さん 夫婦で支え合い50年 80歳と75歳「待っている人がいると思うと頑張れる」 鹿児島市

 2023/03/29 15:02
ドイツパンを手に笑顔を見せる東郷藏太さん、さなみさん夫妻=鹿児島市上荒田町の「パンの店フランセ」
ドイツパンを手に笑顔を見せる東郷藏太さん、さなみさん夫妻=鹿児島市上荒田町の「パンの店フランセ」
 街角に焼きたてパンの香りを届け半世紀-。東郷藏太さん(80)さなみさん(75)夫婦が鹿児島市上荒田町で営む「パンの店フランセ」が、1972年の開店から50年余が過ぎた。藏太さんは「パンを待っている人がいると思うと頑張れる。体力が続く限り続けたい」と話す。

 フランセの前身は26年創業の「東郷製菓」。7人きょうだいの三男藏太さんが64年に後を継いだ。それまでは大阪で自動車工場のライン製造の機器などを扱うエンジニアをしていた。

 フランスへの技術派遣が決まっていたが、長男と次男から「料理が得意で手先も器用。家業を継いでほしい」と説得された。藏太さんは「家業を続ける大切さも分かっていた。自分がやらなければ」と腹を決め、フランセを開店した。

 人気商品は、創業当時から継ぎ足したブドウ酵母を使ったドイツパン(600円)。生地をねかせるのに時間を要するため毎週木曜午後のみ販売する。焼き上がりを待つ客も多く、当日売り切れることもある。

 常連の一人で小川町のクリニック経営、斉藤寛史さん(61)は「ほどよい酸味とかみ応えがあり、作り手の技術の高さを感じる。毎週楽しみ」と話す。

 開店した72年に妻さなみさんと結婚。互いの趣味の釣りがきっかけだった。玄人はだしの腕を持つ藏太さんは以前、休みのたびに市場に卸すほど多くの魚を釣り上げ、さなみさんがさばいていたという。さなみさんは「子どもの頃から魚屋とお菓子屋を開くことに憧れていた。二つの夢をほとんどかなえてくれてありがとう」とはにかんだ。