「殺意を感じた」 北朝鮮の工作船を追跡した元航海長は振り返る 「海の警察」海保、今は中国船に対応すべく拠点整備が進む
2023/05/23 21:15
大型巡視船の拠点化が進む谷山2区。今後も追加の配備が予定される=1月12日(本社チャーター機から撮影)
近くでは第10管区海上保安本部の大型巡視船が停泊する拠点整備が進んでいる。中国船の出没が相次ぐ沖縄県尖閣諸島周辺の海域などにも対応するためだ。
大型巡視船2隻が同時係留できる桟橋が2022年3月に完成。23年度内に6000トン級の巡視船が国内最多の6隻体制になり、海保最大級の規模と化す。海保関係者は「南西をはじめ、全方位に出やすい鹿児島は海を守る要衝」と説明する。
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海上の犯罪捜査などを担う海保は「海の警察」と位置づけられる。海上警備では過酷な現場に遭遇する可能性がある。10管で最も緊迫したのが01年に奄美沖で起きた北朝鮮工作船との銃撃だ。
工作船は再三の停船命令に従わず、10管は初の船体射撃に踏み切った。工作船は銃撃戦の後、自爆し沈没した。現場海域に急行した巡視船「きりしま」の航海長だった田中航二郎・現10管総務部長(51)は「操舵(そうだ)室に向かってえい光弾が撃たれ、殺意を感じた」と振り返った。
事件以降、北朝鮮の工作船が姿を消した一方、中国船が東シナ海で動きを強めている。海保は16年から22年にかけて、全国で大型巡視船8隻を相次いで就役させるなど体制を強化した。海保の予算は27年度に22年度当初比約1000億円増の3200億円程度に増える見通しだ。
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安全保障環境が厳しさを増す中、政府は昨年、海保と自衛隊の連携強化を打ち出した。今年4月下旬、有事の際に防衛相が自衛隊法に基づき、海上保安庁を指揮下に置く「統制要領」の概要を発表した。
今回は海保の警察組織としての存在意義を維持する決着に落ち着いた。一方で「非軍事」を定めた海保法25条の見直しを求める声もある。
元10管本部長の遠山純司日本水難救済会理事長(62)=東京=は、海保が有事に住民保護や安全確保などを担うとした統制要領の内容を歓迎する。「法執行機関として冷静かつ毅然(きぜん)と向き合い、有事に発展させない緩衝材の役割が今こそ大事だ」
10管は2月、国内初となる米沿岸警備隊との合同訓練を鹿児島湾で実施した。沿岸警備隊は米軍の一軍種でもあるが、海保幹部は「救助など海上保安機関として連携した」と強調する。
中国海警局は海軍の艦艇を海警船に改修するなど武装化が進む。刻々と推移する現場で、海保から自衛隊へどう任務を引き継ぐかなど課題も残る。非軍事で向き合う最前線は今後も緊張と警戒が続く。
(連載「転換期の空気 安保激変@かごしま」4回目より)
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