〈詳報〉最低賃金897円答申 過去最大44円増だが…「楽にならない」「払えるか心配」 労使の思惑、物価高や景気回復遅れが影

 2023/08/11 07:28
鹿児島県の最低賃金を897円に引き上げる答申をした鹿児島地方最低賃金審議会の松枝千鶴会長(左)=10日午後、鹿児島市山下町の鹿児島合同庁舎
鹿児島県の最低賃金を897円に引き上げる答申をした鹿児島地方最低賃金審議会の松枝千鶴会長(左)=10日午後、鹿児島市山下町の鹿児島合同庁舎
 鹿児島地方最低賃金審議会は10日、県の最低賃金(最賃)を時給897円に改定するよう答申した。過去最大となる44円アップとはいえ、物価の高騰は止まる気配がなく、労働者は「それでも足りない」とため息を漏らす。新型コロナウイルス禍からの売り上げがなかなか戻らない零細事業者は「賃金を払えるか」と不安を募らせる。

 「ずっとぜいたくせずに必要なものだけ買っているのに、物価が上がるので楽にはならない」と語るのは、鹿児島市の警備員、福徳孝志さん(66)。1日8時間半、月に22日ほど働く。現在の勤め先は14年目だが、時給は常に最賃近くでボーナスもない。「44円上がっても増えるのは月に約8000円。生活はあまり変わらない」とこぼす。

 6月の同市の生鮮食品を除く消費者物価指数は前年同月比2.6%増。16カ月連続で前年同月を上回り、物価高は長期化している。実質賃金は2022年3月から23年5月にかけ15カ月連続で前年を下回り、賃金が上がっても物価上昇に追い付いていない。

 同市のコールセンターで働く女性(28)は「物価高騰で(買い物などでポイントをためる)ポイ活をするようになった」といい、同市の事務職男性(30)は、「コンビニエンスストアの利用を控えるようになった」と語る。

 最賃の853円で働く同市30代男性は、猛暑でエアコンを使わざるを得ず「電気代を減らしたくても減らせない」と嘆く。「節約したくても削れないものがある。賃金が上がらないと命に関わる」と訴える。

 経営者側の表情もさえない。「最賃が上がる報道を見るたび真綿で首を絞められる思いだ」。鹿児島市の天文館や騎射場で串カツ店を営む時任健二さん(55)が打ち明ける。

 コロナ禍で減った客足は戻りつつあるが、まだ8割ほどにとどまる。足元では光熱費や食材の仕入れ値が上がり、今後は実質無利子・無担保のゼロゼロ融資の返済も始まる。「賃金を上げられるなら上げたい」と時任さん。ただ「景気回復してから賃金を上げるのが普通の流れ。景気回復の波が遅れる地方が、全国一律に賃上げの波にさらされるのはおかしい」と話す。

 「人手を確保するために経費を削って人件費を捻出している」と苦労を語るのは天文館にあるビジネスホテルの副支配人。宿泊客はまだコロナ禍前の7割程度だ。

 最賃より100円以上高い時給でもなかなか人が集まらず、勤務の融通を利かせたり、車での通勤を許可したりと賃金以外で工夫する。「最賃が上がれば、さらに時給を上げないといけない。人をそろえられるか心配」と不安をにじませる。