社説

[米中首脳会談]緊張緩和維持へ対話を

2025年10月31日 付

 トランプ米大統領はきのう、2期目初のアジア歴訪の総仕上げとして、中国の習近平国家主席と会談した。

 両首脳は韓国南部の釜山で対面し、カメラの前で握手。「習氏と長期間にわたって素晴らしい関係を築くだろう」とトランプ氏は述べ、習氏は「両国はともに繁栄できる」と強調した。

 二大経済国間の貿易摩擦がひとまず緊張緩和に向かう。とはいえ、米国の高関税措置や、中国による経済的威圧が自由貿易体制に及ぼす悪影響は依然、楽観視できない。米中は世界経済の安定を保つことが大国の責務と自覚し、対話を続けてほしい。

 最大の焦点は、中国による重要鉱物レアアース(希土類)の輸出規制を巡る問題だった。

 中国はハイテクに欠かせないレアアースの世界市場で生産の6割超、精錬の9割超を握り、対米交渉で優位に立つ。今月に入ると首脳会談を前に輸出管理の厳格化を発表し“揺さぶり”をかけた。反発したトランプ氏は「取り下げなければ11月1日から100%の追加関税を課す」と脅しに出た。

 米中貿易摩擦の再燃とみられた一方、閣僚級協議で関係改善の努力も図られていたことは評価すべきだろう。

 今月25、26日にマレーシアで開いた協議で、中国がレアアースの輸出規制導入を1年延期、米国は100%追加関税を発動しないとの「暫定合意」に達した。週明け27日の東京株式市場の株価は、終値で初めて5万円を突破。摩擦激化に身構えていた投資家に安心感が広がった証しと言える。

 ほかにも水面下の地ならしが首脳同士折り合う結果につながった。

 中国は、高関税措置への報復で購入を止めていた大豆など米国産農産物の輸入拡大に合意。米国は、合成麻薬フェンタニルの流入を理由に中国に課していた20%の追加関税を、中国側の密輸対策強化と引き換えに10%引き下げる。来年4月に予定されるトランプ氏の訪中は、首脳相互訪問への踏み台との観測もある。今後もあらゆるレベルにおける意思疎通と交流が必要だ。

 会談前には、習氏が貿易交渉妥結を餌に、中国が「不可分の領土」とみなす台湾を巡って米国に譲歩を迫るのではないか、との報道も流れた。独立に反対する明確な表現をさせ、台湾に対米不信を植え付けるとの臆測だ。

 だがトランプ氏は「台湾問題について協議しなかった」と明らかにした。台湾有事は日本の安全保障に深く関わる。力や威圧による一方的な現状変更の試みに踏み切らせないよう、米国は慎重な姿勢を崩さないでもらいたい。

 きのう韓国南東部の慶州では21の国・地域が参加するアジア太平洋経済協力会議(APEC)の閣僚会議も開かれた。米中の綱引きが続く中、自由貿易の堅持へ日本の果たす役割は重い。

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