マコモダケを初収穫する農家ら=鹿児島県大崎町永吉
鹿児島県大崎町は農地保全を目的に、耕作放棄地を活用したサンショウとマコモダケの実証栽培に取り組んでいる。農家の協力で手間のかかりにくい作物を栽培し、収益化につながるモデルづくりを模索。農福連携で作業の負担軽減を図り、生ごみを活用した有機堆肥の利用を通して商品価値のアップも狙う。
大崎町永吉で10月末、マコモダケが初めて収穫された。栽培場所は20年以上使われていなかった湿田。曽於市財部の農家、小倉範房さん(73)と町内農家、ひふみよベースファーム大崎(就労継続支援B型事業所)の計7人が、半年で2メートル超に成長した株の間を行き来して収穫した。
マコモダケはイネ科の植物。根元で膨らむ茎の栄養価が高いことで知られ、管理に比較的手がかからない。指南役の小倉さんは「水が夏に切れるので心配だったが、無事にできてよかった。少しでも現金収入につながるのでは」と話す。
周囲は稲刈りを終えた田が点在するものの、イノシシやタヌキの生息する痕跡が見られ、山手から耕作放棄地が広がりつつある。
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町によると、町内には大型機械が入りにくく作業効率の悪い農地がある。農家の高齢化や多忙化などで広がった耕作放棄地が有害鳥獣のすみかになり、農作物が被害を受ける状況になっている。
実証事業は、農地保全と再生を目的に耕作放棄地を活用し、新規作物を栽培・販売するものだ。町農林振興課の宮下功大農政係長は「『代々受け継がれた田んぼを自分の代で放置し、申し訳ない』との声でスタートした」と説明。農林水産省の農山漁村振興交付金を活用し、2024年度から3年間実施する。
実などが軽く収穫しやすいサンショウを24年度から約2000平方メートル、マコモダケは25年度に約700平方メートルで栽培。農家の負担にならないよう、収穫は農福連携で就労継続支援B型事業所が担う計画だ。
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両作物の選定は市場可能性も考慮した。サンショウは特産品のウナギ、ちりめんとの相性も良く、高い価格設定が可能。マコモダケは天ぷらなどの食用、葉を加工した茶のほか、しめ縄やお香の材料としての需要が見込める。
生ごみから生まれた有機堆肥を利用するなど、リサイクルや持続可能な開発目標(SDGs)に取り組む町の強みを生かしたブランディング構築にも着手。民間と連携した加工品開発や販路開拓を進める。
宮下係長は「農家が無理なく続けられる形で、農地を保全できるモデルを目指している。販売・加工の出口戦略を進め、大崎ブランドとして出荷できる体制をつくりたい」と話した。