2025年7月よりヤンマー建機株式会社(以下、ヤンマー建機)は、福岡県筑後市のふるさと納税返礼品として、同社を代表するミニショベルのミニチュアの提供を始めました。ミニチュアのモデルとなった超小旋回機の新シリーズ「デルタ(δ)」は、当社にとって“復活”の意思を込めたモデルです。昨年より販売を開始し、現在、多くのユーザーの愛顧を集めております。しかしながら、その復活に至るまでには、大きな”挫折”がありました。今回、デルタ(δ)が生まれるに至ったその歴史と開発ストーリーをご紹介します。
1980年代後半、日本は好景気に沸き、株価や地価の高騰など歴史的な経済の拡大期にありました。住宅産業界は新たな住まいの可能性を追求し、多くの家庭で人々がマイホームを持つという夢を広げました。
新設住宅着工戸数は、1986年に136.5万戸、87~89年にかけて160万戸代後半を維持し、90年には170.7万戸を記録と一つのピークを迎えました※。低金利や住宅優遇税制なども重なり、時代はまさに住宅ブームと呼んで差し支えないものでした。
そのような社会背景が、小型で狭い現場でも小回りのきく建設機械を誕生させることとなりました。それが超小旋回機です。
※出典: 住宅着工統計(国土交通省)
普段から建設機械に接する機会がない方には耳慣れない言葉かもしれません。超小旋回機とは、油圧ショベルの一種で、後端旋回半径比、フロント最小旋回半径比とも120%以内に収まるショベルのことを指します。つまり、上部体をぐるっと旋回したときに機体のはみ出し部が少ない、という特徴を持ちます。
参考・・・下記のように、前後左右に余裕のない狭小な現場において、旋回してもはみ出し部がないことは、安全に作業できることを意味する。
後端、フロントともにコンパクトに収まることから、制限のある狭い現場に最適です。都市部でよく見られるような、通常タイプの建設機械では入ることのできないような現場で活躍します。
またブームが左右並行にオフセットする機構を持ち、正面を向いたままオペレータに近い手前側の作業空間を有効に使えます。特に自らの機体に近いところにおいて、最大掘削深さに優位性があります。
想像してみてください。所狭しと複数の住居が立ち並ぶ住宅地や住宅の合間で、建設機械の動きが制限され、周辺には複数の建設従事者が作業する中で、掘削しそこに配管を埋設しなければならない現場を・・・
超小旋回機は、まさにそのような工事現場で活躍してきました。我々の毎日の生活は、この超小旋回機抜きでは実現できないと言っても過言ではありません。普段、街で見かける住宅工事はもちろん、住宅地を走る生活道路や、上下水道、ガス、電気といったライフラインについても代表的な用途です。
携帯電話、電子マネーや軽自動車など、高度なニーズに基づく市場の独特な環境により、日本では、世界の潮流とは離れたガラパゴス化とも呼べる製品サービスの独自進化が観察されます。実は、超小旋回機も同様なのです。特にミニショベルのカテゴリは、日本でしか見られません。よってヤンマー建機が、超小旋回機に取り組むこと自体が、日本市場への注力を意味しています。
ミニショベルをカテゴリ分けした場合、下記3つの区分けが最も一般的です。
標準機は、現在でも中型・大型の油圧ショベルで支配的なタイプで、せり出した後端部が特徴的です。海外では根強い人気のあるミニショベルのカテゴリの一つですが、日本ではほとんど見られません。
後方超小旋回機は、ヤンマー建機のViOシリーズでお馴染み、後端部のせり出しがない、もしくは非常に少ないタイプです。1993年にヤンマー建機が世界で初めて発明し、その後世界的に広がったことで、ミニショベルのスタンダードとなりました。世界全体で見た場合、稼働機のおよそ7割が後方超小旋回機です。
超小旋回機は、前述の通りです。後端部に加え、機械のフロント側のはみ出しが少なく、狭所作業のチャンピオンと呼ぶにふさわしい機械です、日本でも特に都市部で絶大な支持を受けています。
ミニショベルのカテゴリ
ヤンマー建機最初の超小旋回機YB281X型の発売は1985年まで遡ります。路地奥作業や片車線内工事など、狭い現場で活躍することを目的に市場投入した本機は、旋回半径が0.8mと非常にコンパクト、かつオフセットブーム機構で側溝掘りも可能な画期的なミニショベルとして発売されました。
年号が昭和から平成に変わった1989年には、超小旋回機 名称をYB型からB型に改名し、それが今日まで続きます。
1991年には超小旋回機B7型を発売しました。現場のニーズを的確に捉え、現場からの発想にて開発し、現場から大変好評を博した、との記録が残っています。ハンズオンで学び、実践的な問題解決を大切にするヤンマー建機の考え方は、昔も今も変わりません。
一方で世の中の動きに目を転じると、バブル景気と呼ばれた株や不動産価格が際限なく上昇する時代は終わりを遂げていました。実際の生活上で多くの人がバブル景気の終わりを感じるようになり、現在まで尾の引く長い不景気の時代がやってきました。
1995年にはB1Uが登場。他社建機メーカーから供給を受けたモデルで、1~7tまで展開しました。新機構として「マルチリンクブーム」を装えていました。
1990年台の終わりにかけて、往年の建機ファンにとってはまだ記憶に新しい シグマ(Σ)シリーズが誕生します。最終的に、2~7tまで5機種(B2, B3, B4, B6 & B7)で展開された、現在でも根強いファンを持つ、ヤンマー建機が生んだ名機です。
・業界で初めてViOシリーズと同タイプの2本支柱キャノピーを採用
・狭所での旋回を得意とするΣブーム
・作業機の形状や配置の工夫により、下方向への深堀と、上方向への作業高さを両立
・大容量カウンターウエイト、作業機の軽量化や偏心トラックなどの採用による安定度の確保
本来であれば矛盾しあう狭所での小回り性と吊り性能(安定度)の両立や、矢板を打設したその先を掘削することができるといった深い側溝掘り性能など、特定の業種・作業をするユーザーのニーズに刺さったシグマ(Σ)シリーズは熱狂的なフォロワーを生み出しました。
当時作成されたシグマ(Σ)シリーズが掲載されているポスターからまさにその勢いを感じられるのではないでしょうか。
多くのユーザーに受け入れられ、根強いファンを持つΣシリーズでしたが、長引く不況がこれまでとは異なる消費者ニーズを生み、購買行動に変化が見られたのもまた事実でした。2008年にはいわゆるリーマンショックがあり、多くの建設会社は安定して工事受注を取得できるかどうがわからない先行き不透明な不安から「建設機械を所有する」という投資行動に慎重になり、経営リスクを最小化しました。しかしながら必要な建設機械がないと、事業は成り立ちません。その受け皿となる建設機械レンタル市場は確実に成長を続けていました。
建設機械レンタル市場では、多くのユーザーが使用するため仕様が単純で操作がわかりやすいものが好まれる、不特定作業に用いられるため特定の作業に強い専用機よりも汎用的な機械が望まれる、といった特徴があります。ユーザーに強い支持を受けながらも、市場構造が変化する中で、Σのために用意された席は限定的でした。
2016年にはB-Uシリーズが登場。他社建機メーカーから供給を受けたモデルで、ワンプッシュ、ワンアクションで電子キーやワンタッチデセル、走行自動2速など、簡単操作で快適作業できる超小旋回機となっています。一部モデルで現在も販売を継続している機械です。
そして、2024年には、デルタシリーズがデビューすることとなりました。
デルタ(δ)シリーズ開発は、ヤンマー建機全社一丸となって進められたプロジェクトでした。その道のりは簡単なものではなく、苦難の連続でした。
顧客価値創造のため全社一丸となってお客様の声をカタチにする、というかけ声とともに開発は進められました。デルタ(δ)という名前ひとつとっても、社内公募の上決められました。
全国のお客様の声を分析し、その想いを形にしたプロジェクトについては、下記動画にて内容をご覧いただけます。
本シリーズは、電子制御油圧システムを採用した超小旋回機で、バケット容量0.077㎥の「B3δ(型式:B3-7)」とバケット容量0.11㎥の「B4δ(型式:B4-7)」の2型式を2024年10月に発売しました。
今回、「変化」と「差」を象徴するギリシャ文字であり、文字そのものの形が機体の超小旋回性能を表現した「デルタ(δ)」を、新シリーズ名としました。デルタ(δ)シリーズのテーマは、「MAKE NEW STANDARD」です。従来機シグマ(Σ)シリーズでの優れた深掘り性能を踏襲し、新たに電子制御油圧システムを採用することで、低燃費に加え操作性も向上させています。また、「B3-7」のクレーン仕様では機械質量を3t未満に抑えており※、3tダンプトラックでの輸送が可能です。掘削力や吊り上げ力などの基本性能も向上しており、シリーズ名にふさわしく、狭小地での工事に最適な仕様となっています。
※オプション装着時は3t以上となる場合があります
さらに、新シリーズのテーマ「MAKE NEW STANDARD」にちなみ、著名なラッパーの呂布カルマ氏が書き下ろした新曲およびミュージックビデオを公開しました。
市場導入を果たしたデルタ(δ)シリーズは、ヤンマー建機のみならずこれまでヤンマー建機を支えてきたお客様と一緒になってつくりあげた機械です。工事現場での要望をひとつひとつ形にしていったデルタ(δ)シリーズは多くの現場で満足・納得感とともに受け入れられていき、市場への浸透が徐々に進んでいます。
躍進を続ける本シリーズのハイライトのひとつは、2025年6月18日(水)から6月21日(土)まで幕張メッセで開催された「第7回 国際 建設・測量展(CSPI-EXPO 2025)」での出展でした。B3-7δのCSPIでの雄姿を、下記リンクから是非ご覧ください。
デルタ(δ)シリーズはお客様にとっても、ヤンマー建機にとっても、大切に育ててきた商品です。お客様への感謝の意味を込めてダイキャスト製のミニチュアの製作を手がけることとなりました。今回そのモデルが、福岡県筑後市のふるさと納税返礼品として選ばれたことに、ヤンマー建機一同誇りを感じています。実物の建機同様に、細部まで実機の再現にこだわりぬいて製作されており、建機ファン・ヤンマーファンはもちろん、ミニチュア好きにもたまらない一品となっています。
1.作業機部分は可動式:ブーム・アーム・バケットを好きな角度に調整できます。
2.リアルなオペ席:レバーやシートまで細部を作り込みました。
3.YANMARロゴ&注意銘板:本機と同じ位置に配置。
4.シリンダーガード:ブーム・アーム・バケット・ブレードの4か所を忠実に再現。
5.アンダーカバー:車体裏まで抜かりありません。
商品説明
名称YANMAR B3δ(Excavator DIE-CASTING METAL)
製造地中国
内容量約110mm(横)×約70mm(奥行)×約160mm(高さ)
原材料名ダイキャスト(合金)等
保存方法高温・多湿・直射日光を避け、涼しい場所に保管してください。
提供者ヤンマー建機株式会社
筑後市ホームページ
https://www.city.chikugo.lg.jp/shisei/_30740/_30714/_1587.html
ふるさとチョイス
https://www.furusato-tax.jp/product/detail/40211/6641049
楽天ふるさと納税
https://item.rakuten.co.jp/f402117-chikugo/112-1217/
ふるなび
https://furunavi.jp/product_detail.aspx?pid=1633040