株式会社Cyber AI Productions(以下CAI)では、動画広告のクリエイティブ制作において生成AIを積極的に導入し、新しい制作手法を追求しています。生成AIクリエイティブの向上を目的として、、生成AIクリエイティブコンテスト「AIエキシビション」を開催しています。今年で3回目の開催となった本プロジェクトについて、実例の紹介とともに、当社の赤井、ベク、岡田、松川による対談でお届けします。
※写真左から
岡田 直樹 / AI Creator / Editor
松川 純也 / AI Creator / Editor
ベク スンア / AI Creator / Designer / Editor
赤井 健二郎 / Producer
ベク:AIエキシビションの開催は2025年で3回目になります。開催の大きな目的は、「生成AIを活用したクリエイティブの可能性を探る」こと。生成AIを用いた作品を制作・発表することで、クリエイターの表現が広がるきっかけとなり、それをクライアントワークに活かしたいという想いから実施しています。
赤井:CAIでは日頃から生成AIを活用したクリエイティブに取り組んでいるメンバーが揃っており、その実力には自信があります。「いかにいいクリエイティブを作れるか」を社外にアピールし、次のステップに進むきっかけにしたいと思ったんです。
ベク:今回のAIエキシビションではふたつの部門を用意し、ショートフィルム部門では「もし○○だったら?」、CM部門では「日本の魅力を伝えるインバウンド向けのCM」をテーマに設け、2ヶ月ほどの制作期間を設けました。
岡田:僕がショートフィルム部門で制作したのは、「もしスパゲティの頭を持つ異星人がいたら?」をテーマにしたパラレルワールドです。
ショートフィルム部門のテーマを聞いたときに、日常から少しずれた世界観を作りたいと考えたのが着想のきっかけです。アイディアを壁打ちする段階から生成AIを活用したところ、「スパゲティヘッド」のきっかけとなった画像がポンと出てきました。
これまでも人間の頭部に別のものを当てはめる生成AIの活用事例は見たことがありましたが、調べたところ、スパゲティについては前例がなさそうだということも分かり、採用することにしました。
一方で、CM部門は日本の魅力の一瞬を切りとったジオラマ作品集のようなコンセプトにしました。カメラワークとマッチカットで流れを作り、日本を旅しているような感覚を表現しました。
日本の観光資源を紹介するというテーマでも、生成AIを活用する以上、実際にある観光資源はすべて“フィクション”になってしまう。そう考えた時に、視聴者側に“フィクション”らしさを強調しすぎない表現方法を探るために「ミニチュア」「ジオラマ」の要素を取り入れることにしました。実際に手作業で制作するとしたらコストがかかるものなので、生成AIだからこそ挑戦できる領域だと感じ、取り入れました。
松川:僕の作品は「富嶽三十六景の海が麺になっていたら面白いかもしれない」というアイディアから着想し、食×文化(アート/漫画/アニメ)を基本構造として制作しました。
食べ物や食事のシーンは、生成AIが不得意とする分野のひとつなので、苦労しました。例えばお寿司をAIで生成した際に、妙に豪華になる、見たことのない食材が添えられているといった経験がありました。
赤井:僕も同じような経験があります。食べ物ってAIで生成するのが本当に難しいんですよね。
松川:今回の制作にあたって、複数の生成AIツールに同じ食べ物を生成してもらった上で、一番美味しそうに見えるものを選択しました。これは日頃からエディターとしてさまざまな素材を取捨選択した経験が活かされたポイントだと思います。
ベク:私の作品は「これまでクライアントワークや社内検証で生成した結果、ボツとなり、使われなかったAI画像たちはどうなってしまうんだろう?」という空想から着想を得ました。また、以前から3DCGにも興味があるので、CGのような世界観をAIで表現したいと思い、自分の中で新たな制作手法にチャレンジできた作品でもありました。
赤井:この作品はカメラワークがすごいですよね。この手ぶれ感を出しながらカメラワークを表現することって、とても難しいんです。
ベク:それぞれのキャラクターを自由に動かしたかったので、具体的な動きは指定せず、生成AIに委ねることにしたのがポイントです。カメラワークを含め、全体のストーリーや構成を考えるのに時間がかかってしまいましたが、構成が決まってからは“自由さ”を追求できて、新鮮なクリエイティブとなりました。
赤井:全体を通して、今年は前年より圧倒的な成長と変化を感じた作品が揃いました。これまでは「生成AIの使い方がうまいかどうか」が評価基準だったところが、生成AIを活用できることを前提とした上で「視聴者から見て面白い作品が作れるか」という部分を評価できるクオリティで制作できるフェーズにきたと感じています。
今では誰もが生成AIを使えるようになり、いいビジュアルを作ることまでは簡単にできてしまいます。その中でCAIが優れているのは、カメラワークや構成、カットの繋ぎ方、素材の取捨選択といった、クリエイターによる生成AI活用技術そのものにあると思うんです。特に三人の作品は、クリエイティブのゴールを見越して作られている作品として印象に残りました。
岡田:本企画で実感したことは、生成AIの進化の速さです。2ヶ月の制作期間のうち、CM部門の作品は1週間ほどで制作したのですが、それから締切に至るまでいろいろと新しいツールが出てきたんです。同じプロンプトでもアウトプットがまったく変わるという経験をして、スピード感が大切だと実感しました。
赤井:ツールを扱う上で難しいのが、どれだけツールが進化しても上手く生成されない画像は生成できないままという点ですよね。
岡田:「あと少しで理想の画像を生成できるかも」という道筋が見えてきてからが本番という認識です。
松川:「このプロンプトなら出せるかも!」というのが見えてくるんですよね。それでもさすがに難しいものは諦めますが。
僕の作品でいうと、CM内に出てくるとんかつは何度も生成しました。今回採用したとんかつの中央部分が裏返って中身が見えるようになっている配置は、生成AIが出してくれた画像を見て「確かにいいとんかつ屋さんではこの配置で提供している」とハッとしましたね。
生成を繰り返したとんかつ
採用されたとんかつ
あとは、食事をするシーンの質感の調整にも苦戦しました。AIで生成すると忠実に再現されてしまうのですが、今回は生成AIを使ったクリエイティブならではの質感を探りました。
赤井:今回のAI エキシビションでは、生成AIでしかできない表現を追求しているのも、大きな強みだと感じました。いい作品を作るためには、生成AIツールの特性を理解し、適切に選択・活用し、ひとつの作品を作り上げなければなりません。これらのスキルを兼ね備えられているのはクリエイターだからこそではないかと感じています。
もし松川さんの作品で生成された人間のみを出すといかにも“生成AIっぽく”なってしまうと思うのですが、漫画の吹き出しのような要素を入れることによって違和感を軽減できている点にクリエイターの力を感じました。
岡田さんのスパゲティヘッドもそうです。もしこれが、顔は人間のままで髪の毛がスパゲティだったら違和感を拭うことは難しかったと思うんです。それが、頭部を丸ごとスパゲティに変え、かつ画面上の動きやカメラワークを工夫することで、視聴者が違和感を持つ間もなく見続けられる構成になっている。これはエディターとしての日頃の視点が活かされたポイントだと思います。
松川:試行錯誤を重ねていると、「このプロンプトなら上手く生成できる」というパターンが見えてきます。これは一度で終わるものではなく、次の制作にも活かせる。プロンプトそのものが資産になると思います。
ベク:生成AIを用いたクリエイティブでは人間が求めている動きを出すように指示することが多い中で、今回のイベントではあえて決めずに予想外の動きを楽しんだ結果、新たな作品を作ることができました。クライアントワークでもこの生成AIクリエイティブならではの柔軟な発想を活かすことができたらクリエイティブの可能性を広げられるのではないかと感じました。
赤井:まだ構想段階ではあるのですが、来年のAIエキシビションでは、いくつかのセクションに分けることも考えています。三人のように生成AI活用技術面においてトップを走っているメンバー同士で競い合うケースもあるでしょうし、生成AIを触ったことのないメンバー同士でトーナメント戦を繰り広げても面白そうだな、と。さらに広がりを見せて、いずれは学生イベントを開催することなども検討しています。
ベク:その間も生成AIツールはめまぐるしいスピードで進化し続けると思いますが、Xなどで生成AIの流行をチェックしたり、気になったものはすぐに試したりしながら、クリエイティブに活かしていきたいです。
赤井: 生成AIによるクリエイティブって、簡単に作れると思われがちなんです。ですが実際はそんなことはなく、たくさんの人の手が介在しています。生成された動画や画像一つひとつに対してディレクションできる人が、今後生成AIが進化しても残っていくクリエイター像なのではないかと思います。
松川:生成AIを活用したクリエイティブでは、一本の動画を制作するにあたって数十本もアイディアを出しています。素材となるAI画像の生成も、生成された素材から適切なものを選択することも、そして一本の動画にまとめることも難しい作業ですし、そこにこそ私たちの強みがあると伝えたいです。
岡田:今後は“審美眼”がより試されるようになると思います。生成AIの活用によって、これまでは外部に用意してもらっていた素材を自分で用意できるようになっているので、クリエイティブとしても新たな可能性が広がると思っています。
赤井:今後はこれまで当たり前とされてきた広告のクリエイティブの在り方も変わってくるでしょうし、生成AIならではの新たな表現の可能性を探ることができます。そうなると、「どう生成し、取捨選択するか」といった能力が必要となります。CAIのメンバーのように、生成AI活用技術に優れたクリエイターが活躍できる世界を作るために、技術の向上に努めていきたいです。
https://www.cyber-ai-productions.co.jp/works/category/ai-creative/
Cyber AI Productionsは、広告効果と映像クオリティを両立する映像制作集団です。
AIやCG、バーチャルプロダクション等の最先端技術を活用し、メディアに適した表現手法で、未だ見ぬ映像クリエイティブを生み出します。
HP:https://www.cyber-ai-productions.co.jp/