高市早苗首相は、「国家安全保障戦略」など安保関連3文書の改定に着手する。防衛費を2027年度に関連経費と合わせて国内総生産(GDP)比2%とする政府目標は、25年度中に前倒しで達成し、さらなる増額を目指す方針だ。きょうの臨時国会で行う初の所信表明演説で表明する。
防衛力強化に向けた見直しは「一刻を争う」と明言。防衛費増額圧力を強めるトランプ米政権に対し、日本が主体的に進める姿勢を示す狙いがあるのは明らかだ。28日に予定の日米首脳会談で改定方針を提起すると見られる。
改定の是非や内容は安全保障の根本を左右する。国民の理解を得たいなら、首相は防衛の在り方や財源を正面から説明する責任がある。与野党も国会で徹底的に議論すべきだ。
安保関連3文書は、22年12月に岸田内閣が閣議決定のみで策定した。従来の安保政策を大転換する内容で、反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有を初めて明記し、長射程ミサイルの活用などを掲げた。防衛費は23~27年度に約43兆円と、それ以前の計画の約1.5倍超に増やした。3年目の本年度当初予算の対GDP比は約1.8%だ。
ただ、現行計画の財源の一部に見込む所得、法人、たばこの増税のうち、所得税は国民の反発を懸念して実施時期が決まっていない。米政権は水面下で3.5%への増額を求めており、国民負担はさらに増える可能性がある。
3文書改定は自民党と日本維新の会が結んだ連立合意にも沿う。防衛装備品の輸出を「救難」など非戦闘目的の5類型に制限するルールの撤廃、原子力潜水艦を念頭に「次世代動力」の潜水艦の保有推進などの項目も並ぶ。
こうした拡大路線は周辺地域の緊張を高めるリスクがある。装備品の制限緩和は国際紛争を助長する懸念もつきまとう。にもかかわらず高市首相が防衛力の抜本強化を鮮明にするのは、安保政策のブレーキ役だった公明党の連立離脱が影響していると言えよう。
潜水艦を巡っては、防衛省の有識者会議が先月、政府に同じ内容を提言している。だが日本が原潜を保有すれば憲法に基づく専守防衛を逸脱し、「平和主義」を後退させる危惧が深まる。「原子力の平和利用」を定めた原子力基本法との整合性も問われかねない。
原潜は核を含むミサイルを搭載して長期間の隠密潜航が可能だ。現在の保有国は核を持つ米国、英国、フランス、ロシア、中国、インドの6カ国。非核保有国の日本が同列に加わる必然性があるのか疑問だ。提言や自維連立合意をもって既定路線化し、導入を進めることは許されない。
中国の軍拡や北朝鮮とロシアの接近など日本周辺の安保環境は厳しい。対応する防衛力の議論は重要だ。しかし際限のない膨張は避けねばならない。



