社説

[高市氏所信表明]財源伴う物価高対策に

2025年10月25日 付

 高市早苗首相はきのう就任後初の所信表明演説に臨んだ。新たな与野党の枠組みで臨時国会の論戦が始まる。

 全体の約3割を物価高対策と経済成長に割いたほか、防衛費増額の加速化を示した。打ち出した政策は、巨額の予算や代替財源が必要だ。借金である国債に依存すれば財政悪化に拍車がかかる恐れがある。財源の在り方を伴う真摯(しんし)な議論を重ねることができるか、新政権の今後を占う試金石となる。

 自民党と日本維新の会による連立政権は、衆参両院で少数与党のまま。法案成立には野党の協力が不可欠だ。熟議に基づく合意形成の在り方を示してほしい。

 公明党の連立離脱で想定より首相選出が遅れたため、各党代表質問は外交日程の後の11月上旬にずれ込む。同月下旬までに物価高対策を策定し、財源を裏付ける2025年度補正予算案を12月初めに提出する見通しだ。早期策定が求められていたが、出だしからつまずいた形となった。

 演説は「強い経済」の実現を繰り返し、「責任ある積極財政」として戦略的な財政出動を強調した。「所得を増やし、消費マインドを改善し、税率を上げずとも税収を増加させる」と訴えた。経済の好循環で「増税なき税収増」を生み、財政規律を保つという主張である。

 高市氏の経済政策は、「大胆な金融政策」や「機動的な財政政策」などでデフレからの脱却を目指した安倍晋三元首相の「アベノミクス」に倣っているとみられる。ただ物価高や円安が進行し、インフレ局面が続く中でも通用するかどうか、疑問符が付く。需要を過度に喚起する政策はかえって物価上昇の勢いを加速しかねない。

 最優先に位置付ける物価高対策は、ガソリン税の暫定税率廃止や、地方自治体向けの重点支援地方交付金を拡充し、厳冬期の電気・ガス料金の支援を行うことなどが挙がる。

 ただ、ガソリン税暫定税率廃止にしても、追って廃止方針の軽油と合わせて1兆5000億円の税収減になる。その代替財源は不明のままだ。結局、赤字国債発行で将来にツケを残すことにならないか、懸念がつきまとう。

 財政悪化への不安が強まれば国債が売られ、長期金利が大きく上昇する可能性がある。住宅ローンの固定金利や企業が融資を受ける際の利率上昇にもつながり、家計や企業活動に逆風となる。理念より現実的な対応が必要だ。

 「与野党で知恵を結集しましょう」と野党との対話に意欲を見せた。一方で政権の基本方針と矛盾しない限りにおいて、各党からの政策提案を受けるとも言及。野党は「政府と違う角度で議論するのは当然」と強権的な姿勢を問題視する。安倍1強時代のような強引な国会運営に逆戻りしてはならない。

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