「食育」が売りの保育園。園長は34歳、元コンサルタント。耕作放棄地で米作り、食材は地元農家から仕入れる。「挑戦する心を大切にしてほしい。その環境を作りたい」|白水純平さん

2022/01/07 20:53
「園児が個性を発揮し、さまざまな挑戦ができる環境をつくりたい」と話す白水純平さん
「園児が個性を発揮し、さまざまな挑戦ができる環境をつくりたい」と話す白水純平さん
 元気よく走り回る幼児を見守るまなざしが温かい。霧島市の「ひより保育園」園長白水純平さん(34)は、食を通じて生きる力を育み、子どもたちの世界を広げたいと奮闘する。「個性を発揮し、挑戦する心を大切にしてほしい。そのための環境をつくりたい」と励む。

 耕作放棄地を借りて米作りをしたり、調理をしたりと多様な食育体験が売り。給食の食材は地元農家らから直接仕入れる。園児が小さな手で出来たてのみそ汁やご飯をよそい、運ぶ姿は今にもこぼしそうで危なっかしい。「大丈夫。ゆっくり行こう」。自主性を伸ばすためあえて見守り役に徹し、優しく声を掛ける。

 福岡県出身。大学卒業後、熊本県の税理士事務所で会計コンサルタントとして働いていた。結婚を機に2014年、妻梨恵さん(34)の地元鹿児島市へ。「仕事を辞めて妻の故郷に移るのは珍しいかも。子育てのしやすさなどを2人で考え、最適な地を選んだだけ」と気負いはない。

 移住後、人材育成や大学生向けキャリア教育などを手掛ける仕事を通じ、今の同僚と知り合った。子の健やかな成長を願う思いで意気投合。食育に特化した保育園づくりを思い立った。

 「申請手続きや職員集めなど初めての経験ばかり」と振り返る。手探りながら園に懸ける思いを会員制交流サイト(SNS)で発信し、地域の集まりで訴えた。29歳だった17年4月、霧島市の建設会社による企業主導型保育所の園長になり、家族で同市に引っ越してきた。

 保護者より若い園長を受け入れてもらえるのか、入園希望者は集まるのか-。不安だらけだったが、初年度から想像を超える園児が集まった。「最後の1年はここで過ごしたい」と転園してきた年長の子も。「応援してくれる人の存在が自信になった」という。

 従来の枠を超えた取り組みで全国から視察が相次ぎ、京都府と兵庫県にできた保育園のモデルに。18年には鹿児島市に姉妹園「そらのまちほいくえん」ができた。園のレシピ本は20年、子どもの成長に寄り添う活動をたたえるキッズデザイン賞の優秀賞を受けた。「各地の保育施設で食育が発展し、園を起点に地域交流が活性化する」との目標を掲げ、今も挑戦を続ける。

 この間「今の教育が協調性を重んじるあまり、自分の思いを表現できない子どもが増えた」と感じる。「幼いうちに大勢の人と出会って多様な価値観に触れてほしい」

 現場にも課題がある。低い賃金水準に加え、男性保育士が圧倒的に少ないことだ。“保母”という言葉からも、男性がこの職種に入って日が浅いと分かる。「更衣室がないなど環境が整っていないのも要因」とみる。「性別に関係なく、希望する職に就ける世の中になればいい」と願う。

 私生活では3児の父。21年、梨恵さんが夢だったカフェを霧島市に開いた。「保育園に関わりたいとの思いを尊重してくれた。今度は自分が応援する番」。家事や育児を分担し、お互いの夢を形にしてきた。大人が「やりたい」という気持ちを諦めないことこそ、子どもにとっても大事と考えている。

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