生態は謎だらけのクビナガリュウ。ペリット研究で、食性など謎の一部が明らかになるかもしれない((C)川崎悟司)
連載[化石ハンター宇都宮聡のじつは恐竜王国!鹿児島県]⑤より
クビナガリュウ化石の骨を岩から取り出す、クリーニングを進めている最中のことでした。下顎(あご)と第1頸椎(けいつい)、舌骨(ぜっこつ)のすぐ近くに、不思議な骨の塊のようなものがあるのに気付きました。
骨化石の記録を行う際には余分なものです。普通だったらちゅうちょなく削り取るのでしょうが、何となく気になりました。丁寧に取り出すことにしました。
よく観察すると、小さな骨か歯のようです。まず、クビナガリュウが食べた魚か、アンモナイトなどの頭足類の可能性を探りました。しかし、形状がはっきりとしません。クビナガリュウの子どもではないかとも考えました。こちらは小さ過ぎます。
判断がつかず、交流サイト(SNS)を通じて親交のあった東京都市大学の中島保寿准教授に相談することにしました。脊椎動物の化石全般に詳しい古生物学者です。
標本を持参して見立てを伝えたところ、彼の口から驚くべき仮説が飛び出しました。「ひょっとしたら、クビナガリュウのペリットかもしれない! だとしたら世界初の大発見だ!」
猛禽(もうきん)類や爬虫(はちゅう)類は、食べた生き物の骨などの異物を丸めて吐き出す習性があります。この吐しゃ物をペリットと呼びます。
クリーニング中のクビナガリュウは、ペリットを喉(のど)に詰まらせて死んだのかもしれないのです。
分析の結果、塊(かたまり)をペリットと断定できました。ほとんど明らかになっていない生態の解明につながる貴重な発見です。
中島准教授が2021年、ペリットに関する共同研究の成果を日本古生物学会で発表しました。現在、国際論文として報告するため、さらに研究が進められています。
【プロフィル】うつのみや・さとし 1969年愛媛県生まれ。大阪府在住。会社勤めをしながら転勤先で恐竜や大型爬虫類の化石を次々発掘、“伝説のサラリーマン化石ハンター”の異名を取る。長島町獅子島ではクビナガリュウ(サツマウツノミヤリュウ)や翼竜(薩摩翼竜)、草食恐竜の化石を発見。2020年11月には化石の密集層「ボーンベッド」を発見した。著書に「クビナガリュウ発見!」など。