客席を駆け抜ける中村勘九郎さんの鬼気迫る演技が観客の感動を呼んだ
「オオイ、オオイ、オ、オ、オーイ」。ライトアップされた断崖絶壁を前に、悲痛な叫びが響き渡った。22日夜、鹿児島県三島村硫黄島で13年ぶりに野外上演された歌舞伎「俊寛」。島は約800年前の「鬼界ケ島」と化し、俊寛流刑の伝説がよみがえった。
1996年と2011年に演じた故・中村勘三郎さんの十三回忌に合わせて実施した。俊寛役の長男・勘九郎さんをはじめ、次男・七之助さん、孫・勘太郎さんらが星空の下で熱演。住民ら500人が幻想的な空間に酔いしれた。
舞台は、平家打倒を企て島流しにあった俊寛ら3人が暮らす鬼界ケ島。1人が海女と恋に落ちたと打ち明ける。都から赦免船がきて喜ぶ3人だったが、海女の乗船は認められない。俊寛は「われを島に捨て置いて代わりに女乗せてためえ」と使者に切願。最終的にはその使者を殺し海女を船に乗せ、自ら島に残る。
いざ船が出発すると、俊寛は孤独感に襲われ始める。島から遠ざかる船を、客席や砂浜など会場中を走り回って追い続ける姿に、観客は腰を浮かせ見入った。
終演直後のあいさつで、勘九郎さんは「今日できたことは奇跡」と感謝。強風で到着が予定より1日遅れ、島では一時雨も。「この時間帯だけ晴れたのは、見守ってくれていたと思う」と亡き父に思いをはせた。
島は翌日も俊寛ムード。勘九郎さんらが乗った船を港で見送る際、住民は「オーイ」と声を張り上げ“俊寛ポーズ”で別れを惜しんだ。