今年1月、川商ホールで開かれた「はたちの集い」=鹿児島市
鹿児島市内の公共ホール不足が深刻になっている。今年から2026年にかけて主要なホールで改修や耐震化の工事が重なるため。コンサートや演劇などの商業的な興行が困難になるほか、吹奏楽コンクールなど学校関連の発表の場にも影響が出ている。
サンエールかごしまの講堂(400席)は来年3月末までの予定で閉鎖中。谷山サザンホール(800席)は今年9月から約1年間使えない。カクイックス交流センター(かごしま県民交流センター)も25、26年の1月に県民ホール(596席)をそれぞれ2週間ほど閉じる。川商ホールは26年に第1(1990席)、第2(952席)とも1年間休止する。
いずれもつり天井の耐震工事などが理由。県内では、みやまコンセール(霧島市)の主ホールも、パイプオルガン設置のため10月から来年5月まで閉館する。
県内で数々の興行を手掛ける鹿児島音協は「使えるホールの競争倍率が高くなり、例年開いていた公演ができなくなる」と危惧する。「劇団四季」ミュージカルなど川商ホールで音協が開いてきた大きな公演は、26年度はまだ会場をおさえられない状況だ。
演劇ではセットを運び込む搬入口の広さも重要。それだけに、現在利用している川商ホールの代替になる施設はなかなか見当たらない。「こんな事態は初めて。ホールがないと仕事にならず、死活問題だ」と南祐司事務局長(59)は嘆く。
公演は2年前から段取りを始めることが多く、27年度も会場を確保できるかどうか見通しが立たない。「26、27の2年間は大きな興行は打ちにくい」と明かす。
ホール不足の影響は学校の活動にも及ぶ。松陽高校は例年1月の休日の昼に宝山ホール(1502席)で卒業演奏会を開いていたが、24年度は希望日があいておらず、平日夜に開催することになった。
同校教諭で県吹奏楽連盟の事務局長も務める立石純也さん(54)は、毎年夏に川商ホール第1で開くコンクールの26年度の会場探しに苦労した。県内から多数の学校や一般が一堂に集まって開くコンクールは7日間会場を占有し、一度に最大65人もの大人数が舞台に上がり演奏する。川商ホール以外で対応できるのは宝山ホールだが例年、霧島国際音楽祭で使われる。
ようやく近隣自治体のホールをおさえられるめどが立ったが、客席数は川商ホールの半分以下だ。立石教諭は「出演者らが全員そろって結果発表を聞くことができない。周辺の宿泊施設も十分ではない」と憂慮する。
ストリートダンススタジオJAM(鹿児島市)の中園竜弥代表(45)も、会場予約に苦労する一人だ。近年はダンススクールの活動が盛んになっていて「鹿児島はもともと施設が足りない」と指摘する。
練習するための体育館を借りようとしても、先に行政の行事が入っているなどして空きがない。年1度の発表会も一昨年は会場が見つからずに開けなかった。「発表会を目標に練習する生徒やサポートする保護者のモチベーションが下がってしまう」と残念がる。
中園代表は「ホールの改修工事が必要なのは十分理解している」としたうえで、「時期を分散してほしかった。市民が施設の予約をもっと取りやすい環境にしてほしい」と注文する。
◇つり天井耐震化、電気設備や空調も…
ホールの改修に伴う休館は全国的な傾向だ。1970~80年代に集中して建設された劇場や音楽ホールなどが築30年を超え改修の時期を迎えている。さらに、東日本大震災で落下が相次いだつり天井は、2014年に国が耐震基準を定め、適合工事が増えている。
築50年を超えた宝山ホールは県が18年に約4億円をかけ、つり天井の耐震化を実施した。昨年以降に改修の実施や計画がある鹿児島市内のホールは、いずれも築21~41年が経過。鹿児島市は基準を満たすため、順次工事に入る。同市建築課の甘利敏行課長(59)は「客席に足場を組む必要があり、休館以外に方法がない」と説明する。
全国公立文化施設協会(東京)によると、正確な件数は把握していないものの「施設の改修に伴う休館は増えている」と断言する。耐震化に加え、設備更新が相次いでいることも要因だという。更新目安は電気設備で20~25年、空調で15~25年、衛生設備で15~20年とされている。
音響や照明、舞台装置には基準はないものの、時代の変化に合わせ更新する必要がある。ある施設の改修担当者は「高価なので、どこの施設も修理しながらだましだまし使っているのが現状」と明かす。