〈資料写真〉移動図書館の周辺にテーブルや書棚の配置し、飲み物などの準備をする「本と人とをつなぐ『そらまめの会』」メンバー
鹿児島県指宿市の指宿、山川の両図書館の指定管理者に共同企業体(JV)の「そらまめの会パートナーズ」が指定された。両図書館の指定管理を4期18年にわたり担ってきた同市のNPO法人「本と人とをつなぐ『そらまめの会』」が単独での応募を見送り、全国で図書館運営に携わる大手の図書館流通センター(東京都、TRC)とタッグを組んだ。
「私たちが図書館運営を続けていくための最後の希望が、JV設立だった」。同会の下吹越かおる理事長は沈痛な面持ちで語った。市が指定管理制度を導入した2007年度から単独で運営を担い、先進的な取り組みが全国で高い評価を得てきた同会。しかし近年は「続けていくためのモチベーションを維持できなくなっていた」と明かす。
理由の一つが人手不足による業務量の増加だ。両図書館で働くのは正職員6人を含む計13人。業務は貸し出し・返却のほか、小中学校などへの配本、蔵書検索機器の管理など多岐にわたる。開館時間は8~9時間半。準備や片付けを入れると勤務は2交代制となる。近年は最低賃金が上がり「103万円の壁」を理由にパート職員らの働ける時間が減る中、正職員に休日出勤や残業などのしわ寄せが来ていたという。
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同会はこれまで、業務内容や時間の見直しを市に訴えてきた。だが開館時間の変更など条例改正が絡むものもあり、実現したのはほんの一部だ。市は人件費の上昇を考慮し、来年4月から5年間の指定管理料を年間約600万円上乗せして3億3736万円とした。市教委生涯学習課は「1万1000円のベアと年間3%昇給に加え、正職員を1人増やせるよう算出した」。
一方、同会は物価や委託費、光熱費の高騰など厳しい事情を挙げ、「月150時間働いて手取りが13、14万円の職員もいる」と指摘。人を増やし給与を上げるには「書籍代で調整するしかないが、それだけはしたくない」と強調する。
同会は全国に約160人しかいない認定司書2人を擁するなど、職員は高いスキルとプロ意識を持つ。理想を掲げ活動する同会と、苦しい財政事情を抱える市の間で「目指す図書館像」に乖離(かいり)があるのが実情だ。
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今回のJV設立は、こうした同会の事情を知ったTRC側が「地域に根ざした図書館の継続を支援したい」と協力を持ちかけた。TRCは全国で約600カ所の図書館運営に携わる。JVでは大手としてのノウハウを生かし、経理や委託業者・関係機関との折衝など総務系の業務を一手に引き受ける。
選書や陳列、企画などの運営や、両図書館で働く職員の配置は引き続き同会が担うため、「市民へのサービスが大きく変わることはない」としている。TRC主催の研修制度を活用し、職員のさらなるスキルアップも図れるという。
TRC九州支社の今村敬吾支社長は「そらまめの会の先進的な活動は、既存の図書館にも刺激になる。業界全体が盛り上がることが、われわれの利益にもつながる」。下吹越理事長は「専門職員が本来の業務に専念できるようになれば負担は減る。うまくいけば、他の公共図書館の参考となる事例になるかもしれない」と期待を寄せた。
◇本と人とをつなぐ 「そらまめの会」 指宿市の図書館ボランティアらが2006年に設立。指宿図書館と山川図書館の指定管理者として、市民の疑問に応えるレファレンス活動や移動図書車を使ったブックカフェなどに取り組む。20、21年に図書館レファレンス大賞審査員会特別賞、21年にライブラリー・オブ・ザ・イヤー大賞、22年南日本文化賞など受賞歴多数。