月700円の家賃に3食550円。圧倒的にも程がある大学男子寮は、ヤンキー漫画の世界だった(連載 サンシャイン池崎の「イケザキクエスト第22話」)

2025/02/02 16:00
大学の扉を開けたイケザキ。新たなダンジョン・男子寮での冒険が始まる
大学の扉を開けたイケザキ。新たなダンジョン・男子寮での冒険が始まる
 部活を引退すると、すぐに進路を決めなくてはいけない。

 「自分の将来をよく考え、志望大学を第3希望まで書いて提出するように」

 無理でしょ。そんな急に言われても。僕はお笑い芸人以外やりたいことがなかった。同じボート部で小学校からの幼なじみイワマツをお笑いに誘うか迷ったが、イワマツは成績もよく、行く大学も決めていて気が引けて誘えなかった。

 鹿屋高校はほとんどの生徒が進学する。だから誰にも言えなかったし、芸人のなり方も分からない。何より、芸人になるなんて怖くて決断できなかった。だってまだ17歳よ。将来を決めるのは早すぎる。

 そもそも将来って何なんだ。未来のことだ。未来の自分にやっていてほしいことを考えてみる。10年も20年も先じゃなくて。2~3年先の未来の自分にやっていてほしいこと。かなえていてほしいこと。…そうだ、彼女が欲しい。デートしたい。キスしてみたい。僕は鹿屋高校を志望した理由と全く同じ思考回路で大学進学を決めた。

 選んだのは大分大学。理由は、僕の学力で行けそうな九州内の大学で一番パンフレットが楽しそうで、いい恋愛できそうだと思ったからだ。学部は正直なんだっていい。学びたいことなんて全くない。勉強なんてクソ食らえだ。

 そこから僕は大分大学に受かるために猛勉強を始めた。朝早く登校して勉強、放課後も下校時間ギリギリまで残り勉強。家に帰ってまた勉強。そして3月。大分大学から「恋愛許可証」が届いた。勉強ってなんてすばらしいんだ。

 住まいは大学の寮に入ることにした。決め手は家賃が安いから。正直、恋愛をするなら一人暮らしへの憧れもあった。だが僕の恋愛のために学費などもろもろの負担を親にかけてしまっている申し訳なさもあり、家賃を圧倒的に抑えられる男子寮に決めた。家賃は1カ月700円。圧倒的だ。しかも食堂があり、朝昼晩3食が550円で食べられるらしい。圧倒的にも程がある。

 4月になった。出会いと別れの季節がやってきた。スーツに袖を通し、故郷の鹿屋に別れを告げ、おやじの運転で大分大学へ。入学式の前、荷物を置きに男子寮へ向かった。寮はコンクリート5階建て。年季が入っており、壁には所々ヒビが入っていた。

 玄関には木製の巨大な板がかけてあり、筆文字で寮の名前が刻まれていた。「紫岳寮」。いよいよ新しい生活が始まる。どんな出会いがあるんだろう。期待に胸を躍らせながら玄関をくぐった。

 そこには漫画でしか見たことのない世界が広がっていた。「○○殺す!」「死ね!」「オラア!」「滅殺!」などの罵詈(ばり)雑言の数々が壁一面に書かれているのだ。ヤンキー漫画の学校かよ。

 おやじは言った。「サトル…住めば都だから」。都を何だと思ってんだよ。人生で忘れることのできない男子寮での生活が始まった。

つづく。

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