出生数減、働き方改革、医師不足…安全に産み育てる環境は守れるか 経営取り巻く厳しさ高まり揺らぐ周産期医療体制、現場から漏れる危機感

2025/02/12 06:00
24時間体制で新生児を見守るNICU=鹿児島市のいまきいれ総合病院
24時間体制で新生児を見守るNICU=鹿児島市のいまきいれ総合病院
 少子化や医師の働き方改革などの影響で、鹿児島県内の新生児集中治療室(NICU)を持つ民間の周産期母子医療センターで運営が厳しくなっている。周産期医療は妊娠22週~生後7日未満の母子を支える一方、手厚い看護体制を要するなど採算割れしやすい。関係者からは「安全に産み育てる体制を守って」と切実な声が聞かれる。

 7日、鹿児島市のいまきいれ総合病院の新生児内科NICU。保育器に1200グラムほどの極低出生体重児らが眠っていた。看護師が脈や呼吸、体温などが映し出されたモニターを確認しながら、体の状態をチェックする。丸山有子周産期母子医療センター長は「早く生まれても時間が解決してくれる。少しずつ育っていく過程を注意深く見守っている」と話す。

 同院は県内6カ所ある周産期母子医療センターで唯一の民間病院。母体・胎児集中治療室(MFICU)を備え超早産児など最重症例を管理する鹿児島市立病院と、母体や赤ちゃんに疾患のある例を多く管理する鹿児島大学病院と共に、ハイリスクの新生児医療の中核を担ってきた。両病院から急性期を脱した赤ちゃんを受け入れる後方支援の役割を果たす。

 しかし、県内の出生数は2023年に1万人を割る。NICUを必要とする赤ちゃんも減り、いまきいれ総合病院では24年に入ってから9床あるNICUの病床稼働率が47%まで落ち込む月もあった。

 さらに医師不足や働き方改革で新たな診療報酬の医師配置基準を満たせず、24年度(4~12月)の新生児内科の利益は前年度に比べ半減。浜崎秀一院長は「鹿児島で安心して出産できるよう公益性の高い周産期医療を四半世紀以上支えてきたが、経営は厳しい。どこまで体制を維持できるか」と危機感を抱く。

 「災害や感染症による施設・病棟閉鎖が生じた時、鹿児島は非常にもろい」。鹿児島大学病院産科婦人科の小林裕明教授は懸念する。

 熊本県では16年の熊本地震で同県最大の総合周産期母子医療センターの機能が停止し、20人以上の新生児を県外搬送した。小林教授は震災後、熊本県がMFICUの数を2から3に増やしたことに触れ、「市立病院の機能が停止すれば、そこで対応していた早産症例を他県に頼らなければならない。機能を分散し、二つ目のMFICUを大学病院に設けて、3病院のNICUを維持することが最低限のセーフティーマネジメントだ」と指摘する。

 いまきいれ総合病院では病床数を調整しつつ、県に相談しながら空床補償など公的支援を求めている。丸山センター長は「それぞれ役割があり、3施設の維持は不可欠。県全体でベッド数の再編を含めた改善策を考える必要がある」と訴える。

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