採算割れのローカル線、価値上げるのは沿線との相乗効果 魅力と活力ある地域創出が存廃のかぎに JR九州は鹿児島県と沿線3市で指宿枕崎線の未来を議論

2025/02/16 11:00
多くの観光客が訪れるJR日本最南端の駅・西大山駅。列車からの乗降客は少なかった=11日午後5時ごろ、指宿市
多くの観光客が訪れるJR日本最南端の駅・西大山駅。列車からの乗降客は少なかった=11日午後5時ごろ、指宿市
 鹿児島県は総額8527億3400万円の2025年度一般会計当初予算案を発表した。基幹産業の「稼ぐ力」の向上や総合的な少子化対策、担い手不足解消に向けた人材確保・育成策の3本柱に重点配分する内容だが山積する課題は多い。塩田康一知事2期目の予算編成を通して、各分野の現状を探る。



 利用者減による赤字ローカル線の存続が危ぶまれている。鹿児島県のJR指宿枕崎線の指宿-枕崎間もその一つで、県と沿線3市(指宿、南九州、枕崎)、JR九州などは2024年8月から同区間の在り方について検討を進める。「未来志向の議論」と関係者は口をそろえるものの、鉄路存廃や協議期間といった決定事項は何もなく、行く末は見えないままだ。

 2月11日、JR日本最南端の駅として知られる西大山駅(指宿市)は、訪日客(インバウンド)をはじめ、多くの観光客でにぎわっていた。昼間の本数は1時間に1本もない。それでも駅の駐車場には車が途切れることなく出入りする。

 長崎県の銀行員男性(61)は「開聞岳や菜の花がきれい」と笑顔を見せる。一方で運行本数が少ないことから「列車は選択肢になかった」と車で訪れた。唯一無二の観光資源は、鉄路ではなく陸路の「目的地」となっている。

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 JR九州が公表する指宿-枕崎間の1キロ当たりの1日平均利用客数を表す「輸送密度」は23年度222人、赤字は4億6200万円。法に基づき鉄道の存廃を議論する「再構築協議会」設置の目安とされる千人を下回る。沿線人口も減少が続き、同社は「現状のまま未来永劫(みらいえいごう)運営を継続することは難しい」と指摘する。

 JR九州は23年、県と沿線3市へ存廃の前提を設けずに同区間の在り方を議論したいと打診した。同社では初の試み。事務レベルで会合を重ね24年8月に検討会議を発足し、まずは「鉄道を生かした地域づくり」を話し合う方針を決めた。

 「日常利用を地元の人に考えてもらう良い機会」とJR九州の古宮洋二社長は検討会議の意義を強調、鉄路の存廃には一切触れず「出口(結論)は決めていない」と繰り返す。一方で「鉄道は維持費がかかり収入が賄えないと非常に苦しい」と本音を漏らす。

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 検討会議の資料では、鉄道が地域にもたらす効果として、移動手段確保のほかに観光客や駅周辺のにぎわいなどを例示し、相乗的に地域づくりを高めることを掲げる。これまで商工関係者や高校生対象のワークショップを開き、沿線の魅力や利活用策を模索中だ。

 委員で呉工業高専(広島県呉市)の神田佑亮教授は「これまでローカル線の議論は採算性が注目されていたが、鉄路存廃が前面に出ると地域の良い将来が描けない」と話す。検討会議では「鉄路があることで、地域にどれだけの人やお金を呼び込めるのかという視点が必要になる」と見る。

 県は25年度当初予算案で、鉄道資産がもたらす経済効果の調査費や実証事業費に4102万円を盛り込んだ。「『鉄道の価値』という定性的なものを目に見えるように調査する」と会長の鈴木圭祐県交通政策課長。沿線には、他県にはない魅力的な観光資源も多い。鉄路を生かした地域づくりをどのように創出し具現化するのか。未来を見据えるヒントにする必要がある。
(随時連載「鹿県予算案2025」から)

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