川内原発重大事故で放射性物質放出恐れ…総合防災訓練で有事の課題洗い出し 福祉避難所開設なしに関係者「一緒に考えたかった」

2025/02/16 11:30
入所者の避難訓練をする施設関係者=15日、薩摩川内市の「お多麻さんの家」
入所者の避難訓練をする施設関係者=15日、薩摩川内市の「お多麻さんの家」
 九州電力川内原発(薩摩川内市)の重大事故により、放射性物質放出の恐れが高まった事態を想定した15日の原子力総合防災訓練。自力で逃げるのが困難な利用者がいる施設や、地震による道路寸断など複合災害からの復旧を図る関係者は被ばく回避への対応を急いだ。

 薩摩川内市では15日、自力で逃げるのが困難な施設の高齢者や子どもを対象とした避難の訓練も行われた。現場では正確な情報伝達、素早い避難といった有事の課題や改善案が聞かれた。福祉関係者からは、障害者の参加など内容の充実を求める声もあった。

 川内原発から約1キロにあるグループホーム「お多麻さんの家」では、入所者役の車いすの職員1人を車両で搬送した。入所者18人の平均年齢は87歳。避難が必要な場合は市を通じて車両を要請する。自ら運転した宮内啓司事務長(45)には道路への倒木といった心配もあるが、一番は「正確な情報が届くか」。誤った情報に基づく不要な避難で、入所者の体調が悪化するのを懸念している。

 原発5キロ圏内の「水引こども園」は保護者にメールを送り、迎えに来てもらって引き渡した。園児65人は地区外からの通園も多く、車で40分ほどかかる保護者もいる。待つ間に被害が拡大する可能性があり、佐藤喜八郎園長(67)は「何より大事なのは避難。緊急時はすぐにバスで全員が逃げるという選択肢があってもいいのでは」と指摘した。

 今回の訓練では、市内に福祉避難所の開設はなかった。福祉関係者からは「障害者の避難経路などを一緒に考えたかった」と残念がる声も聞かれた。

 人工呼吸器の管理が必要な娘(20)と暮らす同市の女性(50)も、参加したかったという一人。これまで市の社会福祉協議会などと協力し、大規模停電に備えた独自の訓練に取り組んできた。しかし、原子力災害を想定したことはない。災害時は電源確保が優先となり、「どういう備えができるかを確認したい」と今後の参加に意欲を見せた。

◇孤立地救出、今回は放射能影響織り込まず

 15日の原子力総合防災訓練は道路寸断による孤立地区や家屋倒壊が相次いだ能登半島地震を踏まえ、ヘリ救助など自然災害の発生を前提に行われた。ただ、放射性物質が放出された際の過酷な状況までは織り込まれず、複合災害に向けた備えは道半ばだ。

 訓練は放射性物質の放出が起きていない想定。消防や警察、自衛隊の実動組織職員らは真剣な表情でヘリ救助のほか、倒木や土砂に覆われた道路の復旧、倒壊家屋からの救助、消火活動などに当たった。

 しかし、訓練に参加した消防関係者の一人は「放出下で人命救助などに対応するには、防護服や線量計の着用が必要になる」と説明する。慣れない重装備が速やかな作業の足かせになる可能性がある。

 訓練を視察した県原子力専門委員会の地頭薗隆座長は、複合災害への対応を盛り込んだ内容を「能登の教訓が生かされた」と評価。その上で「今後、自然災害にプラスして放射線の影響が加わった時にどうなるか検討することになる」と述べた。

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