判決は国の判断任せ、憤る住民「司法は逃げた」 川内原発運転差し止め訴訟は〝門前払い〟 避難計画の実効性に踏み込まず

2025/02/23 11:48
かつて原発建設予定地だった海岸。「能登半島地震で隆起した」と説明する北野進さん=2024年5月、石川県珠洲市
かつて原発建設予定地だった海岸。「能登半島地震で隆起した」と説明する北野進さん=2024年5月、石川県珠洲市
 「避難計画の実効性の欠如にかかわらず、原告らに具体的危険性があるとはいえない」。九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)の運転差し止めを認めなかった21日の鹿児島地裁判決。住民側が求めていた実効性の検証はゼロ回答だった。原子力災害はパニックや複合災害も想定されるため、避難計画が現実的かは裁判にかかわらず疑問視され続けてきた。数ある争点の中で、地域住民が抱える不安との温度差が最も激しい判断を下したといえる。

 地震や火山噴火など自然災害によって、放射性物質の放出を伴う重大事故が起きる「具体的危険の存在」を先に否定。避難計画に踏み込まない根拠にもした。住民側で避難計画を争点化した後藤好成弁護士は「ひきょうだ。裁判で示した課題から逃げた」と憤る。

 判決の理屈だと、重大事故は起きないのだから避難計画を点検する原子力防災訓練などは行うまでもないと論じるのと変わらない。

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 判決の1週間ほど前、薩摩川内市など30キロ圏の9市町を中心に国の原子力総合防災訓練が開かれた。放射線被ばく者が出る重大事故を想定。孤立地区が発生した能登半島地震も踏まえ、ヘリやゴムボートによる避難、インフラ対策などの手順を確認した。複合災害が念頭にある。

 県をはじめ参加機関は、訓練で課題を洗い出す計画。参加した住民からは「現実に起きたらパニックになる」「風向きによっては被ばくは避けられない」と不安が聞かれた。避難道路の整備を求める声もあった。

 そもそも能登半島地震では、運転停止中だった北陸電力志賀原発(石川県志賀町)の周辺で放射線防護施設が相次ぎ損壊。かつて原発建設計画があった同県珠洲市の海岸は隆起に見舞われた。重大事故を紙一重で免れた可能性は否定できない。

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 今回の判決は、住民側が訴えた避難計画や複合災害対応に見解を示さなかった。「踏み込んで検討すると、成り立たないことが明確になるから」。志賀原発訴訟の北野進原告団長(65)は、国が緊急時の対応に関わっているので大丈夫という安全神話が底流にあると推測する。

 原発の安全性の要求水準に、判決が「社会通念」を持ち出したことにも異論を唱える。「複合災害が起きたら逃げられないことこそが、社会通念ではないか。当てはめる先が違う」

 NPO法人「原子力資料情報室」の松久保肇事務局長(46)は原発訴訟の判決について、行政の基準や判断に立ち入らない福島第1原発事故以前に戻る傾向があると指摘。「三権分立は相互がけん制するから機能するのに、司法は放棄している。原発にとどまらない、ゆゆしき問題だ」と嘆いた。

(連載「門前払いの衝撃~川内原発停止認めず」㊥より)

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