大学男子寮という名の異世界。おやじの呪文「スメバミヤコ」に僕はますます混乱した(連載 サンシャイン池崎の「イケザキクエスト第23話」)

2025/03/04 10:36
胸高鳴る大学生活で、男子寮という異世界に迷い込んだイケザキ。壁の落書きが呪文のように迫ってくる
胸高鳴る大学生活で、男子寮という異世界に迷い込んだイケザキ。壁の落書きが呪文のように迫ってくる
 大学の男子寮1日目。落書きだらけの壁を前にぼうぜんと立ち尽くしていると、2年生の寮生が話しかけてきた。

 「この壁驚きますよね~。僕も最初ビビりましたよ~」

 優しげな口調に少し安心する。先輩は入寮する1年生を部屋まで案内する係だった。

 男子寮は北寮と南寮に分かれており、玄関のある南寮の1階から渡り廊下でつながっていた。渡り廊下の途中に、食堂と大浴場があった。

 僕が案内されたのは4階だった。4階は1年生、3階は2年生、2階は3年生、1階は4年生以上が使うようになっているとのこと。説明を聞いてるうちに、部屋の前に着いた。

 「部屋は2人部屋になります。どーぞ」

 先輩がドアを開ける。生まれて初めて親元を離れての暮らし。初めての自分の部屋だ。胸が高鳴った。

 「うわー! スゴいっすね!」

 目に飛び込んできた光景に胸が高鳴る。そこは6畳ほどの部屋だった。右側の壁に沿って学習机、ベッド、クローゼットが並べられており、左側の壁にも全く同じセットが並べられている。歩けるスペースは間の約50センチの隙間のみ。天井と壁には罵詈(ばり)雑言の落書き。胸が文字どおり高鳴って、もう心臓が痛い。え? 大学生活じゃなくて、監獄生活始まろうとしてる? サトルは混乱した。

 「こいはよか。住めば都よ」

 おやじはそれさえ言えば僕が納得する魔法の言葉と思ってるのか、玄関に入った時と同じことを言った。

 え? ここが都? おやじの呪文「スメバミヤコ」にサトルはますます混乱した。

 「狭いっすよね~。でも工夫すれば広くなりますよ~。僕の部屋見ます?」

 混乱する僕に気付いた先輩は、自分の部屋に案内してくれた。ベッドを2段に重ねスペースを広くしており、さらに床には鮮やかなラグマット。壁には落書きを隠すようにポスターや、おしゃれな服が掛けてあった。モテそうな部屋だった。確かにこの部屋なら全然住みたい。都って自分の手で作るもんなんだ。サトルの混乱は解けた。

 「いい部屋でしょ。この後は17時からオリエンテーションがあるので、南寮談話室に集まってください」

 優男先輩がいてくれて良かった。ワクワクが戻ってきた。17時まで両親と大学内を見学した。オリエンテーションの時間が近くなると僕は両親と別れ、談話室に向かった。

 そこには80人ほどの1年生が集まっていた。鹿児島県以外の人ばっかりだ。耳に入ってくるさまざまな方言が、本当に新生活が始まることを実感させてくれた。鹿児島の人がいないかキョロキョロしていると、談話室の時計の針が17時を指した。その瞬間。

 ドガーーン!

 スゴい音がした。談話室の両開きの扉を蹴破って、20人ほどの寮の先輩と思われる人が勢いよく入ってきた。

 「おらあああ、1年! 並べえええええ! 5列縦隊じゃああああああああああ!」

 先頭で血管切れるぐらい叫んでるのは、あの優男先輩だった。

 サトルは混乱した。

つづく。

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