鹿児島大学大学院理工学研究科が運用する海況予報モデル=鹿児島市の鹿児島大学
鹿児島県は総額8527億3400万円の2025年度一般会計当初予算案を発表した。基幹産業の「稼ぐ力」の向上や総合的な少子化対策、担い手不足解消に向けた人材確保・育成策の3本柱に重点配分する内容だが山積する課題は多い。塩田康一知事2期目の予算編成を通して、各分野の現状を探る。
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鹿児島県は2024年7月、県域としては全国で初めて国の「デジタル水産業戦略拠点」に認定された。デジタル技術を活用し、地域一体で漁業の生産性向上や漁村の活性化に取り組むモデル地域。25年度当初予算案に戦略拠点事業を盛り込み、農林水産業の「稼ぐ力」向上につなげる。
鹿児島大学大学院理工学研究科のパソコンには、天気予報のような鹿児島の地図が映し出されていた。
県内漁業者の協力のもと、漁具などに取り付けた小型観測機器から送信されるデータが反映され、海水温や塩分濃度、潮流記録が一目で分かる海況予報モデル。運用する同研究科の加古真一郎教授(47)は「パソコンやスマホでも、鹿児島周辺海域の様子が10日先まで一覧できる」と話す。
情報通信技術(ICT)を活用した漁船漁業のスマート化を目指す試験の一環で、県が23年度から取り組む。この海況予報に、人工衛星が観測した画像などを解析したデータを組み合わせると、モジャコ(ブリの稚魚)の漁場予測にも活用できるという。
「普段は漁業者同士で情報共有して海況を推測する。判断材料の一つとして心強い」と期待するのは、約2年前から観測に協力する海盛水産(阿久根市)の野村敬司代表。魚群を囲い込むまき網漁を操業するが、潮流の影響で「空振り」することも多く、船を走らせる労力と燃料代だけがかさむ日も少なくないからだ。
水産庁の統計によると、22年時点の漁業就業者数は12万3000人で平均年齢は56.4歳。少子高齢化や労働環境の厳しさ、さらに近年は燃油高騰の負担も増し続け、新規就業者は思うように増えない。担い手はここ20年ほどで半減した。
試験を受託する県水産技術開発センター(指宿市)の湯ノ口亮研究員は「水産業が抱える課題解消につながる」と力を込める。観測データが増え精度が上がれば、出港前に良好な漁場への最短ルートが分かることも夢ではない。県は海況予測と漁場予測を一体化したアプリ開発を目指しており、燃油消費量と労働時間の15%削減を目標に掲げる。
新年度予算案では、シラスウナギ(ニホンウナギの稚魚)の情報一括管理システム構築も含め、戦略拠点事業に計2384万円を計上する。持続可能な水産業の実現へ向け、デジタル技術をどのように活用していくのか。「モデル地域」の取り組みに全国から注目が集まる。
(随時連載「鹿県予算案2025」から)