談笑する運転手。20代は貴重で孫のようにかわいがられるという=鹿児島市浜町の鹿児島交通鹿児島営業所
運転手が足りない。地方だけでなく鹿児島市内でも運転手不足による路線バスの減便・廃止が相次ぐ。住民の移動を支えるバス業界の求人難は深刻だ。待機時間のある変則勤務や事故リスクが敬遠されがちな上、平均年齢の高さなど構造的問題も横たわる。バス運転手を取り巻く実情を紹介する。(連載かごしま地域交通 第2部「運転手はどこへ」②より)
鹿児島市浜町にある鹿児島交通鹿児島営業所、夕刻の敷地には100台以上のバスが止まっていた。運行から戻った運転手が、巧みなハンドルさばきで空きスペースにピタリと巨体を収めていく。整然と並ぶ光景に圧倒される。
「このくらい楽勝でできなくちゃ。プロだからね」。車体をねぎらうように磨き上げながら、照れくさそうに話す男性は48歳になる。一般的な会社なら中堅、ベテラン扱いされる年齢だ。
「自分たちが一番若い方。下の世代はなかなか入ってこない」とこぼす。車庫で輪をつくり談笑する仲間に20~30代とみられる人はほとんどいない。「若手がいない状況が続けば、われわれが80歳まで働かないと現場は回らないかもしれない」と苦笑する。
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厚生労働省の統計によると、全国のバス運転手の平均年齢は54.9歳(2023年)で、全産業平均より10歳高い。県内の運転手平均は60歳。新型コロナウイルスが猛威を振るっていた4年ほど前から一気に上がった。
鹿児島交通の平均年齢も60歳(24年10月現在)。18年には50.7歳だった。平均が50歳を超えたこの年、定年を61歳から65歳に引き上げ、73歳まで再雇用で働けるようにした。後輩が増えない中、ベテランの力を借りて運行ダイヤを守っている格好だ。
現在は後期高齢者と呼ばれる75歳まで延長した。ちなみに73歳以降は毎年、独自の技能検定を実施している。
若手が少ない要因の一つに、バス業界特有の採用事情がある。バス運行に必要な大型2種免許を受験するには、普通自動車免許を取得し3年以上経過していなければならない。このためバス運転手になる人材は、トラックなど物流・輸送業界からの転職組を前提とする傾向があった。
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こうした事情から国は22年5月、道路交通法を改正した。特例講習を受ければ、普通免許の保有期間が「1年以上」で大型2種免許の受験資格を得られるようになった。
運転手の平均年齢が57歳(24年10月現在)の南国交通は、このルールを生かし若返りを目指す。22年からバス運転手養成制度の対象下限を18~20歳に引き下げ、若年者の採用に本腰を入れ始めた。
今年4月には運転手候補として同社初となる高校新卒の2人が入社予定。既に普通免許を取得しており、大型2種免許の受験資格を得るまで自社敷地での運転練習や事務作業をしてもらう。順調なら来年4月以降、運転手デビューできる。「19歳バス運転手」が多く活躍するようになれば、新たな採用モデルとなりそうだ。
採用担当者は「バスに憧れ、運転手になろうという高校生がいることが分かった。最短で目標に近づける制度。企業、生徒ともにメリットは大きい」と期待を寄せる。
ただ、養成は簡単ではない。制度を活用して晴れて運転手になったものの、退職してしまった人もいる。上川博文自動車事業部長は言う。「実際にハンドルを握ってみて、合う合わないはある。未経験者は大歓迎だが、ミスマッチのリスクも隣り合わせだ」