原口アヤ子さんの自宅での様子を記したノートを見ながら当時を振り返る支援者=27日、大崎町仮宿
大崎事件の支援者らが書き残したノートがある。そこには原口アヤ子さん(97)の健康状態や食事内容、支援者の訪問の様子が細やかにつづられている。2010~14年ごろの記録で、年月の長さが感じられる。
第4次再審請求の棄却が判明し、一夜明けた27日、「再審をめざす会」の宮地久美子さん(78)=東串良町=はノートを読み返し、「『もう今日は泊まらんね。さびしが』と言われた日もあった」と振り返った。同会の稲留淳子さん(66)=大崎町=と武田佐俊さん(81)=串間市=も集まり、結束を改めて確かめた。
宮地さんは「裁判官も人の子。『裁判をやり直そう』という雰囲気と意識をつくり出していかなければならない。賛同の声を集める署名活動に力を入れたい」と強調。稲留さんも「諦めずに取り組んでいくという気持ちが一層強くなった」と決意を語った。
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原口さんが初めて再審請求してから、4月で30年が経過する。これまで4度申し立て、いずれも鹿児島地裁、福岡高裁宮崎支部、最高裁まで審理された。計12回のうち3回は再審開始が認められたものの、検察側が抗告し、高裁支部や最高裁が覆して終結した。
再審請求は審理に時間がかかる傾向にある。今回の第4次請求は、申し立てから最高裁が判断を下すまでに4年11カ月を費やした。
「あまりにも長く司法判断に翻弄(ほんろう)され続けるアヤ子さんを思うと怒りがこみ上げる」。第1次請求から支援する永仮正弘弁護士(81)は「生きているうちに再審を」と胸の内を明かし、「今回も『疑わしきは被告人の利益に』の鉄則に反している。いつになれば扉は開くのか」と嘆いた。
1966年の静岡県一家4人殺害事件で再審無罪が確定した袴田巌さん(88)の姉ひで子さん(92)は「落ち込んでいる暇はない。前を向いて闘い続けるしかない。絶対に諦めたらいけん」と言い切る。今回の決定内容が分かった26日、原口さんと電話をつなぎ、「再審法改正は必ず実現する。それまで頑張って」と励ましたという。
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「弁護団として、第5次請求にも当然応えたい」。森雅美弁護団長(72)は力を込める。一方で「今回の新証拠も退けられ、壁の厚さを感じざるを得ない。固定観念を打ち破る難しさを痛感する」と漏らす。
裁判官5人のうち1人が再審開始を認める反対意見を出した点を踏まえ、「評価を受けられたのは喜ばしいが、今となってはそれも旧証拠になってしまった。論理を補強するか上乗せできる新たな証拠を、何とか探したい」と前を見据えた。
原口さんの長女で申立人の西京子さん(70)=大阪府=は「歯がゆくて何も言えない。一番かわいそうなのは母。(高齢になり)もう自分で話せなくなっているから」と声を落とした。
再審が認められないまま30年。「日本の司法はだめなのでは」と憂う。しかし最高裁にも「再審すべきだ」と判断した裁判官がいたことに期待を寄せている。
「あともう少しだと思う。母はいつも、死ぬまで頑張ると言っていた」
(連載「遠い救済~大崎事件再審請求」㊥より)
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1979年に鹿児島県大崎町で男性の変死体が見つかった「大崎事件」で、殺人と死体遺棄の罪で満期服役した原口アヤ子さん(97)の親族が裁判のやり直しを求めた第4次再審請求について、最高裁第3小法廷(石兼公博裁判長)は26日までに「(弁護団の新証拠には)証明力に限界がある。有罪認定に合理的疑いを生ずる余地はない」として、原口さん側の特別抗告を棄却した。再審開始を認めない判断が確定した。