「命を諦めて、と言われているようだった」…高額療養費引き上げ見送りに利用者安堵 政争のカードとなって二転三転、制度の未来に尽きぬ不安

2025/03/08 07:00
治療と仕事の両立に向けた相談窓口を案内するチラシやパンフレット
治療と仕事の両立に向けた相談窓口を案内するチラシやパンフレット
 命を支える制度、しっかり考えて-。医療費の支払いを抑える「高額療養費制度」の利用者負担の上限額引き上げを巡り、8月からの実施が見送られることになった。鹿児島県内の利用者や医療関係者は安堵(あんど)しつつ、今後への不安や、昨年末の決定から二転三転した方針への憤りを口にした。

 「とりあえずほっとした」。霧島市の社会福祉士の女性(50)は話す。14年前に治療した乳がんが再発した昨年末、引き上げ方針が明らかになった。夫と高校生の子ども2人と暮らす中、医療費の負担は大きい。「子育てで一番お金がかかる時期。国は治療と仕事の両立支援をうたうのに、どうしてここを上げるのか。『命の選択を諦めて』と言われているようだった」と明かす。見送り方針を喜びつつ、「まだ油断できない。また上がるかも」と不安は尽きない。

 日本リウマチ友の会鹿児島支部の支部長(68)も長年利用し、長期療養者には限度額が引き下げられる同制度に助けられてきた。「リウマチは女性の患者が多い。制度がないと、家計を考えて治療を諦める人が出てくる可能性もある」と心配する。「さまざまな人が利用している制度。政府は広く目を向け、考えてほしい」と訴えた。

 「ただでさえ治療で不安なのに、金銭的な心配があればさらにつらくなる」と話すのは、がん患者や家族でつくるNPO法人がんサポートかごしま副理事長(54)。自身も乳がん治療で制度を使う。「仕事や家族の有無など環境は人それぞれ。収入だけで一律に判断するのはおかしい」と疑問を呈する。

 県保険医協会副会長の高岡茂医師(73)=鹿児島市=は「患者さんが最善の治療を受けるための大事な支え。国は見直しというが、改悪そのものだった」と指摘する。引き上げ方針が明らかになって以降、がん患者や心臓手術を控えた患者から不安の声を聞いてきた。「命を守る仕組みが政争のカードに使われている」と憤った。

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