WCS用稲も減産が懸念される。轟木高昭社長は供給量の確保に苦慮する=7日、伊佐市菱刈
全国的な品薄を受け、鹿児島県内でもコメの高値が続いている。流通の改善を図り業者間で高騰するコメの取引価格を落ち着かせようと、農林水産省は初めて政府備蓄米の放出に踏み切った。一方、米価が上がったことで2025年産は主食用米の増産が予想され、飼料用の稲や醸造などに使われる加工用米へのしわ寄せも懸念されている。
◇
米価高騰の影響で2025年産は加工用米の減産が懸念されている。鹿児島県内で集荷業を営む70代男性は「昨年は農家から連日苦情が相次いだ。同じような価格ではとても作ってもらえない」と、値上げの必要性を訴える。
加工用米は単価は安いものの、作付けに応じて国や自治体から交付金が支払われるため、これまで収入は主食用と遜色ないか上回っていた。ところが、24年産は県内主食用の買い上げ単価の目安となる概算金が、普通期で玄米60キロ当たり約2万6000円と前年の2倍に。男性によると加工用は数百円増の9000円にとどまり、各種助成を含めても単価は1万7000円程度だった。
加工用は交付金申請のため6月末までに契約を結び、これまでは途中変更できなかった。主食用と栽培の手間暇は大差なく、24年産は加工用の割合が多い生産者ほど「大損」となった。
■□■
加工用米の大半(約5000トン)を扱うJA県経済連は、25年産は3分の1程度に減るとみる。担当者は「買い上げ単価を主食用にどれだけ近づけられるか交渉が必要だが、極端な引き上げはできない」と苦慮する。
加工用米は冷凍米飯や焼酎の仕込みなどに使われる。原料代が上がれば商品の値上げも必要だ。
県内の酒造会社は、砕けたりした主食用品種の「くず米」を焼酎の仕込みに使っていたが品薄で確保できず、昨年初めて地元JAの加工用米を調達した。主食用並みに高く価格転嫁が難しいため、今年は仕込み量を減らす方向で検討する。
年600トンほどの加工用米を使う県内製粉メーカーの担当者も「必要量が集まらない可能性がある。頭が痛い問題だ」と漏らす。
家畜の餌となる飼料用の稲や米もしわ寄せを受ける。発酵粗飼料(WCS)用稲を生産するグリーンネットワークとどろき(伊佐市)は、昨年32ヘクタールあったWCS用稲の受託面積が受託先の主食用作付けにより今年は10ヘクタール以上減る見通し。轟木高昭社長(68)は「収益が高い方に変えるのは仕方ない。ただ、牧草で代替するにも限界があり、これまで通り飼料を供給できるかどうか」とこぼす。
■□■
25年産は全国的に主食用の作付けが増えると予想され、29道県が24年産実績より増産の目安を出している。人口減少でコメ需要が減少傾向にある中、過剰生産となれば価格が下落する恐れもある。
主食用と加工用を作る霧島市の男性(53)は「鹿児島は全国で最後にコメが収穫される地域。周囲でも主食用に切り替えるという話を聞く」として、今のところ様子見の状態だ。
南さつま市で焼酎原料用芋やコメを作る男性(46)は25年産米は全量を加工用米にする。労力上の問題が一番の理由だが、「芋を買ってくれている焼酎業者が原料不足で困るだろうから安定供給してあげたい。それに主食用は今年は高いかもしれないが先は分からない」と話す。
増収を期待して主食用を増やすか、安定収入が見込める加工用などを続けるか。交付金申請はこれから本格化する。
(フォローアップ経済「消えたコメ」㊦から)