移動販売車の商品を品定めする利用者=2月下旬、いちき串木野市
近くにスーパーなどがなく、生活必需品の購入が難しい「買い物弱者」への支援が課題となっている。鹿児島県によると、県内の買い物弱者は約14万人。県は市町村を通じ、移動販売などに参入する業者の経費補助を続ける。一方、現場では採算が合わず事業継続が危ぶまれるケースが相次ぎ、関係者からは継続的な支援を求める声が上がる。
2月下旬、いちき串木野市の平木場公民館前。介護予防の体操を終えた住民7人の前に、移動販売車「ぐりんぐりん号」が到着した。5年前に車の運転免許を返納した渕脇光代さん(70)は荷台に並んだ食料品を購入。「家から一番近いスーパーまで車で約20分かかる。ありがたい」と話した。
「ぐりんぐりん号」は2022年に運行を始めた。市社会福祉協議会が地元の青果店に委託し、近くに商店がない地域など20カ所以上を回る。社協の久木崎祐一さん(40)は「高齢者の見守り活動にもつながっている」と利点を強調する。
社会的な課題となった買い物弱者をどう減らしていくか。近年各市町村は事業者や社協と連携し、移動販売や配達、乗り合いタクシーなどのサービスを提供する。
県も22年度に県内全域を対象とした調査を実施し、24年度から支援事業に乗り出した。25年度当初予算案には1578万円を計上し、移動販売車の購入費など新たなサービス導入のための初期投資や、自治体による住民の需要調査費を補助する。市町村による買い物支援サービスの拡充を後押しするのが狙いだ。
ただ事業の継続に不安を抱える関係者は少なくない。移動販売を担う北薩地方の小売店担当者は「住民の要望には応えたいが、利用者が少なく利益はほぼ出ない。本店のスーパーで補っているのが現状で、事業を成り立たせるための支援を考えてほしい」と話す。
人件費や物価の高騰も追い打ちをかけるが、ガソリン代などの維持費を補助する市町村は少ない。ある自治体担当者は「財政的に厳しく、事業者全員を支援する余裕はない」と説明する。
買い物弱者問題に詳しい茨城キリスト教大学の岩間信之教授(都市地理学)は「人口減少が進む地域を対象とする買い物支援事業で利益を生むのは限界がある。行政が買い物支援を福祉と位置づけ、継続的な支援の在り方を考える必要がある」と指摘した。
県地域政策課の溝口俊徳課長は「今後も市町村と連携し、どこに住んでいても安心して暮らせるように対応したい」と話した。