県の新総合体育館事業が計画されるドルフィンポート跡地(中央)=鹿児島市、2024年1月、本社チャーター機から撮影
鹿児島県議会文教観光委員会は13日、事業費が488億円に膨らんだ県新総合体育館計画の事業推進、見直しを求める陳情をいずれも継続審査とした。「県民の理解を得た上で整備すべき」と理由を挙げた。県は3月定例会で理解を得られれば6月定例会に設計費用約9億円を提案するとしていたが、県議会は可否判断を事実上先送りした。
県議会の要請で委員会に出席した藤本徳昭副知事は、488億円の事業費はあくまで推計で詳細な建設費を示すには設計が必要とし、「設計費を計上する時期を知事と協議して決めたい」と述べた。
県は今後の主な大規模施設整備で想定される公債費(借金返済)見通しを提示。新体育館の償還が始まる2030年前後に県庁舎、県民交流センター、農業開発総合センターの償還が相次ぎ終了するため、各地域振興局庁舎などの建て替えで生じる分を合わせても33年度以降は大規模施設整備の公債費が減るとした。
民間事業者に資金調達から整備・運営までを包括発注するPFI手法から個別発注する従来型手法に転換することで、交付税措置のある有利な地方債や補助金を新たに活用できるようになると強調。償還期間が30年に延びる一方、単年度の一般財源負担額が約10億円に抑えられると改めて説明した。
新体育館の事業費は22年3月策定の基本構想の約2倍になった。コスト圧縮のため、県は8000席以上のメインアリーナを7000席にするなど客席数を減らす方針。委員からは客席数で削減できるとする目先の15億円よりも将来的な経済波及効果を重視すべきという指摘もあり、藤本副知事は再検討する意向を示した。
13日の文教観光委は、審議日程を組み替えて事業費増額に伴う財政面への影響や見直し案の妥当性などを巡って集中審査した。議長公務で欠席した松里保廣委員を除く9人のほか、委員外の4議員が質問した。
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新総合体育館整備事業を集中審査した文教観光委員会の主な質疑は次の通り。
伊藤浩樹委員(自民) 観客席を1000席減らすことの見解は。
西博夫スポーツ・コンベンションセンター整備課長 競技フロア面積を削るのが難しい中、あえて1000席削減を検討した。経済波及効果は、基本構想で推計した51億円より年4億円の減少が見込まれるが、それでもなお47億円の効果はあるのでコスト削減策の一つとして示した。
藤本徳昭副知事 1000席減らして初期費用(施設整備費)を15億円削減するのか、あるいは年間4億円の経済波及効果の方を重視するのかという議論はある。そのあたりを協議いただき、県として最終判断したいと考えている。
長田康秀委員(自民) 今後10年のスポーツ人口の推計は調べていないのか。
徳田清信保健体育課長 スポーツ庁や研究機関に確認したが、エビデンスに基づくデータはなかった。笹川スポーツ財団発行のスポーツ白書で2021年度までの10年間で生徒数は20.4%減に対し、野球を除く高体連の登録者数は9.4%減だった。人口減とスポーツ人口の関係は簡単には見いだせない。
長田委員 県民にどう理解を求めるか。
西課長 県政かわら版や県の公式LINE、県政出前セミナーを通して、整備の意義などを伝えていきたい。
平原志保委員(無所属) 整備により、離島から参加した選手の延泊は少なくなるか。
徳田課長 大会を一つの会場で行うと移動時間が減り、審判や運営委員の負担も減る。複数の会場で分散開催していた本年度の中学生のバドミントン大会を新体育館で行うと試算すると、約8時間短縮できる。
平原委員 事業費に駐車場整備分は含まれていない。駐車場の必要性は。
西課長 スポーツ競技団体からも必要との声を聞く。ドルフィンポート跡地周辺に6カ所ある県営駐車場の稼働率などを見ながら、整備の在り方を検討する。
福司山宣介委員(県民連合) 本議会で予算計上しなかったのはなぜか。
藤本副知事 有用としていたPFI方式から従来方式に変える意向なので、まずは議会の議論を聞きたいと判断した。議会の意見を踏まえて、次のステージを考える。
犬伏浩幸委員(無所属) 有利な地方債はどれくらいの額を見込んでいるか。
陸川諭財政課長 現時点で示すのは難しいが、指定避難所での避難者の生活環境改善に使える地方債は、トイレや授乳室などに使えるので、一定規模の額になる。
宇都恵子委員(県民連合) 県民の意見を聞く機会は設けないのか。
藤本副知事 基本構想を作る際にパブリックコメント(意見公募)をしている。増額が大きな問題なのは事実だが、基本構想の考え方はあまり変わっていないので、パブコメはなじまない。