鹿児島県警の不祥事を巡る報道について議論する南日本新聞「読者と報道」委員会=2024年11月、鹿児島市の南日本新聞会館
鹿児島県警の情報漏えい事件を巡り、県警は福岡市のウェブメディアを家宅捜索した。取材活動に従事する記者にとって、「取材源の秘匿」は堅守すべき鉄則であり、それを脅かす事態となっている。警察権力の暴走か適正な捜査か-。連載「検証 鹿児島県警」の第3部は、一連の経緯や海外の事例を通し、メディア捜索の是非を考える。(連載・検証 鹿児島県警第3部「メディア捜索の波紋」⑤より)
鹿児島県警のメディア捜索について、南日本新聞はどう向き合ったか。2024年6月22日付の社説は「知る権利脅かす禁じ手」との見出しで言及。「秘匿をルールとする取材源を公権力が法的強制力を発動して暴くことは、取材の自由を妨げる」と論じた。
8月には、県警の「家宅捜索は適正だった」との説明を受け、メディア業界からの批判と識者の見解を掲載した。
刑事訴訟法の専門家の視点として「最高裁の判例法理にのっとれば、真相究明のための捜査の必要性と、報道の自由がどの程度妨げられるかという2点が丁寧に比較検討されることになる」と紹介。捜査が適法かどうか議論するためには、「家宅捜索に踏み切った経緯と理由を、県警は具体的に説明する必要がある」という指摘を報じた。
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報道内容を読者はどうみたか。11月にあった県内有識者と同紙編集幹部が意見を交わす「読者と報道」委員会では厳しい声が相次いだ。
「ウェブメディアへの強制捜査は報道の自由との兼ね合いから敏感になるべき問題」と述べた有識者は「地元メディアであるからこそ特に強い問題意識を掲げた記事があってもいい」と注文した。
県警の不祥事に対する全般的な報道について、別の有識者は「積極的に取り上げ始めたのは、ウェブメディアが第1報を発信してから半年後だった。タイミングを見計らっていたのかもしれないが、少し遅すぎるという印象を持っている」と苦言を呈した。
同月、読者から取材班に届いたメールには「(県警から)情報をもらうメディアとしては大変でしょうが、今後も国民のため常識的に報道すべきことは報道してください」とあり、警察との距離を注視している様子が見受けられた。
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南日本新聞社の平川順一朗編集局長(58)は「取材源の秘匿は報道機関が堅守すべき倫理だ。それを脅かす強制捜査は許されない」と強調する。県警に対し「権力監視の役目は不変。対等であり、記事化の判断が左右されることはない」と立場を鮮明にする。
問題意識は全国の新聞社にも広がっている。「民主主義を脅かす暴挙だ」(信濃毎日新聞)、「問題多すぎる捜査手法だ」(新潟日報)など、少なくとも南日本新聞を含む20紙以上が社説や論説で県警の捜査手法を指弾した。
平川局長は「『報道の自由』は民主主義を守るための大前提だ。ただ、メディアが多様化し、標榜(ひょうぼう)するだけで認められるとも思っていない」との認識を示す。「報道機関の使命と責任を改めて確認し、社会で共有するための議論を深めるきっかけにもなった」と指摘した。
=第3部おわり=