おしゃれな店には、常連となった近隣の高齢者も多く訪れる=3月、屋久島町栗生
四方を海に囲まれた離島では、人と人とのつながりがひときわ濃い。「ともに暮らせばみな仲間」。鹿児島県・種子島と屋久島にも、地域のために汗を流す住民たちがいる。1市4町を歩き、そんな愛ある取り組みに触れた。(連載「支え愛ランド種子島・屋久島」④より)
屋久島町役場から島の南半分を回り、車で約50分。最西端の栗生集落に、アップルパイが人気のパン屋がある。2024年5月にオープンした「くりおのくらし」。昼時になると、地元住民や1時間かけて買いに訪れた客でにぎわう。
かつては漁業や林業で栄え、家屋がひしめく様子から「栗生千軒」と例えられた集落。しかし、産業の衰退に加え、島の海と空の玄関口から遠く、急速に少子高齢化が進んだ。近隣集落の子どもも受け入れてきた保育園が昨春で閉園。交流人口の減少に危機感を持った園の元職員4人でパン屋を始め、株式会社化した。
リンゴやバナナを使った焼き菓子を売りにするのには理由がある。元副園長の田嶋弘典社長(47)は地元の寺の住職。「供え物で多く、うまく調理できないか考えてできたレシピ」と笑う。県の特産品コンクールに出品したパウンドケーキはバイヤーの目に留まり、福岡の百貨店での販売が決まった。
社員はほかに妻尚子さん(48)、岩川里穂さん(45)、上山夏子さん(38)。全員が保育園の同僚で、気心が知れた仲間だ。目の前の通学路に笑い声が響き、子どもたちがのぞくこともしばしば。尚子さんは「身近で気軽な存在というのも、パン屋を選んだ理由」と話す。
営業は午前10時〜午後3時で、水・木曜が休み。昨年12月から近くの旧保育園を活用し、週末限定のランチを始めた。岩川さんは中華、上山さんはイタリアンを勉強中。「自分がわくわくすることをやって、地域に笑顔を振りまきたい」と口をそろえた。
=おわり=