建設から100年以上が経過する広瀬川橋梁=18日、出水市
第三セクター・肥薩おれんじ鉄道(熊本県八代市)は、鹿児島県出水市にある鉄橋の補修に当初予定から3年過ぎても着工できていない。米之津川の漁業権を持つ広瀬川漁業協同組合(同市)の男性理事から同意が得られなかったことが理由という。鉄橋は建設から100年以上が経過。同社は「経年劣化が進み、重大な事故を招く恐れがある」として、出水市に協力を求めている。利用者からは不安の声が上がっている。
同社や市によると、米之津川に架かる長さ179.9メートルの広瀬川橋梁(きょうりょう)。1923(大正12)年に建設された。
同社は劣化が著しく修繕が必要な状況のため国に補助金を申請し、2021年10月に業者と工事の契約を結んだ。
契約から2日後、漁協の窓口として紹介された男性理事に工事内容を説明。理事はその日の夕、同社事務所を訪れ役員らに14時間にわたって、漁業権とは関係のない批判や叱責(しっせき)を繰り返したという。同意を得られず、同11月に工事の契約を解除した。
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利用者は高校生が多い。通学で使う高校生は「鉄橋が古くなって怖い。早く修繕してほしい」と話す。
男性理事は昨年9月もおれんじ鉄道側に対し「時刻表に会社運輸部の連絡先の表記がない」などとして、工事の協議を受け付けないと発言。同社は今年2月、市に協力を要請した。
市は漁協に対して、地方自治法に基づく「総合調整権」を市長が行使できる議案を市議会定例会に提出。賛成15、反対1の賛成多数で可決された。椎木伸一市長は2月21日、総合調整権を行使し、漁協に不当・不誠実な行為を繰り返す男性理事の解任など組織改善を命じた。
漁協は2月末、臨時理事会を開いた。内木場司組合長によると、男性理事は漁協理事ではなく、市議(当時)の立場で事務所に行ったなどと説明。「(市の見解について)相違がある」と発言したという。
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椎木市長は取材に「漁協は当該理事の解任と、組織のあり方についてしっかり対応してほしい」と語る。ただ総合調整権に強制力はない。市は事態打開へ3月、漁協を監督する鹿児島県に指導するよう要請した。
一方、内木場組合長は「市側はこちらの話を聞かずに総合調整権を行使した」と主張。「事実確認をしたい」と男性理事を含め、市、おれんじ鉄道と協議の場の設定を求める文書を市に提出した。「この件は早く解決したい。話し合いをしたい」と話す。
椎木市長は「おれんじ鉄道は市に対応を要望している。3者協議はあり得ない」とし、市は漁協に一連の対応について説明を求める場を設ける方針だ。
男性理事は取材に「何の件についてもマスコミに語る必要はない」と答えた。
漁協を巡っては、魚の増殖につながらない放流をしているとして、県が初めて稚魚の放流などを求める増殖命令を3月28日付で出した。