ガソリンスタンドが消えていく…高齢化とEV普及で揺らぐ地域インフラ 「息子に継がせたくないが…」店主の苦悩は続く

2025/04/21 11:23
昨夏閉店したガソリンスタンド。給油ホースや洗車施設がそのまま残されていた=4月上旬、鹿児島市春山町
昨夏閉店したガソリンスタンド。給油ホースや洗車施設がそのまま残されていた=4月上旬、鹿児島市春山町
 自動車の燃費向上や電気自動車(EV)の普及により、鹿児島県内でガソリンスタンド(給油所)の廃業が進んでいる。経済産業省の統計を見ると、全国の給油所はここ30年で約半数にまで減った。公共交通機関が少なく自家用車が手放せない地方をはじめ、冬場の灯油配達や災害時のエネルギー確保など、給油所は暮らしと直結している。鹿児島の減少率は全国より緩やかなものの、個人経営の多さから今後、急激に減少する恐れもある。

 4月上旬、鹿児島市春山町の山あいを車で走ると、道路脇の「閉店」の張り紙が目に入った。看板は下ろされているが、自動洗車機や給油ホースはそのまま残り、一目で給油所だったと分かる。近くの主婦(68)は「いつも使っていたが突然閉まった。今は少し離れた系列店で入れるが不便」とこぼす。

 運営していた南国殖産カーライフ事業部によると、昨年8月、約30年間営業したこの店舗を閉めた。担当者は「車の燃費が飛躍的に伸び、反比例するかのようにガソリンが売れなくなった。閉店は自然な流れだった」と説明する。

 理由はそれだけではない。給油所は地下のタンクからガソリンをくみ上げて給油する仕組み。定期的なメンテナンスはもちろん、タンクの設置から40年経過すると、腐食防止のための改修が義務付けられる。一般的な1万リットルのタンク5基だと1000万円以上かかることもあり、改修を前に廃業を選ぶ事業者も多いという。

 県内で大手とされる同社も、ここ5年間で94店舗のうち10店舗を閉めた。担当者は「近隣の給油所に集約する形で、引き続き地域への役割は果たしていく」と力を込めた。

 ■瀬戸際

 資源エネルギー庁によると、24年4月時点の給油所は全国で2万7414カ所。ピークだった1995年3月の6万421カ所から毎年減り続ける。この10年間では6096カ所(18.2%)の減。鹿児島県でも903カ所から145カ所(16.1%)減った。

 同庁は、給油所が3カ所以下の自治体を「給油所過疎地」と定義しており、全国では392市町村区が該当する。鹿児島県では、三島、十島、宇検、大和の離島4村が給油所過疎地に位置付けられる。ただ、自動車1万台当たりの給油所数は7.3カ所(24年3月末)と全国1位の多さだ。

 とはいえ「安泰というわけではない」と話すのは、県石油販売業協同組合の高田英司専務理事。東京や大阪の都市部と比べ、鹿児島県内では家族や夫婦で経営する小規模給油所が多い。高田専務理事は「『地域のため』と気力だけで続けているスタンドもある。担い手の高齢化も進み、今後数年間で閉店が相次ぐ可能性もある」と危惧する。

 ■後継者

 「息子に継がせたくない。経済面も体力面も厳しいことは分かっているから」

 60年以上、地域から親しまれてきた鹿児島市郊外の給油所。オーナーの男性(72)は父親から引き継ぎ、給油から車の窓拭き、灯油の配達といった「フルサービス」を信条に妻と二人三脚で切り盛りしてきた。

 風向きが変わったのは数年前。近所に価格の安いセルフ式給油所ができ、客足は遠のいた。住宅もオール電化が進み、灯油の販売量も減少の一途をたどる。ガソリン代の高騰が続く中、少しでも安い方を選ぶ心情も分かる。男性は自身の代での店じまいを決めている。ただ「灯油の配達まで手がける店は少ない。需要が減ったとはいえ、車がない世帯は困るかもしれない」と葛藤もある。

 離島を持つ鹿児島は、全国でもガソリンが高い県に挙げられる。「小規模事業者が食べていくには価格転嫁しかない。給油所は一種の公的役割も担っているのに、民間任せでいいのか」と高田専務理事。行政を巻き込んだ議論の必要性を感じている。

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