「住んでみろ」基地と共存の町に憤り 爆音24秒が2分に…F35B訓練、馬毛島で実施方針を一転「国のハラスメントだ」 宮崎・新田原基地

2025/04/23 07:00
F35Bの垂直着陸訓練について防衛省の説明を聞く住民たち=11日午後7時ごろ、宮崎県新富町
F35Bの垂直着陸訓練について防衛省の説明を聞く住民たち=11日午後7時ごろ、宮崎県新富町
 基地との共存を図ってきた宮崎県新富町が揺れている。F35Bステルス戦闘機の垂直着陸訓練予定地だった西之表市馬毛島の基地建設の遅れを受け、防衛省が計画を一転、同町の航空自衛隊新田原基地で訓練する方針を示したからだ。防衛省は説明会で「新たな騒音負担になる」と明言。住民は「これ以上は、国によるハラスメントだ」と憤る。

 「住んでみろ」。11日夜、防衛省が町内で開いた説明会で怒号が飛んだ。担当者は騒音を感じる時間について、通常の戦闘機の着陸が約24秒なのに対し、F35Bの垂直着陸ではホバリングを含め約2分に伸びると説明。騒音は着陸地点から約75メートルの場所で約130デシベル、約300メートルの地点で約110デシベルと推定した。電車が通るガード下に相当する100デシベルを上回る。

 F35Bは2025年度中に8機配備される予定で、訓練開始時期は未定だ。同省は、29年度には月平均100回(うち夜間約40回)の垂直着陸訓練を実施する見通しを示している。

■戦闘機1.5倍に
 新田原基地には現在、F15戦闘機が約40機配備されている。計画では31年にF35Bは約40機となり、最終的にはF15約20機を含め計60機となる。戦闘機数は1.5倍となり、離着陸数の増加は避けられない。

 「これは国によるハラスメントではないか」。説明会で元教員の石谷泰宏さん(67)は懸念を示した。今でも平日はF15のごう音が鳴り響く。90歳の母親の食事準備やトイレの後始末に追われており、「疲れ切った日に騒音にさらされるのは耐えきれないほどのストレス」とこぼす。

 石谷さんは幼い頃、親戚宅に下宿していた基地の隊員に遊んでもらい、バイクにも乗せてもらった思い出がある。「国は自衛隊とうまく付き合ってきた住民にもっと寄り添ってほしい」と要望した。

 同省防衛計画課の下幸蔵企画官は「意見を持ち帰り、何ができるか検討する」と繰り返した。

■交付金活用

 基地は町中央の台地にあり町内のほぼ全域が騒音区域となっている。町は基地関連の交付金(2024年度は計約9.1億円)や補助事業を活用し、高校生までの医療費無償化などの住民サービス向上や公共施設整備を進めてきた。

 防衛省は21年、緊急時などを除き、垂直着陸訓練は新田原ではなく基地建設中の馬毛島で行うと町に説明。だが馬毛島の工期延長を理由に方針転換した。

 町基地対策課の甲斐雅啓課長は「今回の計画は負担が重く、強行すれば今まで築いてきた信頼関係が崩れる。防衛省は住民の意見を踏まえた計画や対策を示してほしい」と求める。

 約40年前から基地の協力会「ひや汁会」を運営する高松旦彦さん(79)は「現在の安全保障環境下ではF35Bの配備と訓練は必要だ」と考える。だからこそ住民の理解は不可欠で「国はなぜ最初から垂直着陸訓練をすると説明しなかったのか」と疑問を呈した。

■健康被害訴え

 基地の騒音に対し声を上げてきた町民もいる。周辺住民が騒音で健康被害が出たとして夜間・早朝などの飛行差し止めと損害賠償を国に求める訴訟を17年に起こした。福岡高裁宮崎支部は飛行差し止めは認めなかったものの、国に約2億2440万円の賠償を命じ(原告178人)、25年に最高裁で確定した。

 原告の海老原司さん(71)は「朝のNHK連続ドラマの時間に爆音が鳴り放送が聞こえない」と説明。「裁判所が被害を認めたのに、騒音を減らす対策が不十分なまま新たな負担を押しつけるのはおかしい」と憤る。騒音が特に厳しい激甚地域に暮らす松浦徳子さん(79)は訴える。「これ以上うるさくなると子や孫は町に住みたいと思わなくなってしまう」

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