アメリカ1786、中国139、日本…たったの3 人工衛星の製造数で差を付けられる日本、超小型市場で挽回狙う

2025/05/11 11:30
請島に設置された衛星インターネットサービス「スターリンク」の受信機=2024年5月、瀬戸内町
請島に設置された衛星インターネットサービス「スターリンク」の受信機=2024年5月、瀬戸内町
 世界的な宇宙開発競争が激しくなる中、事業主体は官から民主導へ急速に移行している。国内でも民間企業によるロケットや衛星開発が相次ぐ。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の二つの射場があり、日本の宇宙開発を長年支えてきた鹿児島県だが、衛星活用や民間企業の参入はまだ一部に限られる。急成長が見込まれる宇宙産業を地域振興につなげるための課題を探る。(連載「かごしま宇宙新時代」①より)



 奄美大島の南方に浮かび、「離島の離島」とも言われる瀬戸内町の請島(島民約70人)と与路島(同約50人)。光ファイバー回線が届いていない両島で、2024年5月からインターネットの高速通信が一部で使えるようになった。

 通信を支えるのは米スペースXの衛星インターネットサービス「スターリンク」だ。国によると、今年1月末時点で約7000機が打ち上げられている。

 スターリンクにより、両島の小中学校では、他の学校とのオンライン授業がスムーズにできるようになった。25年度には島外の医師による遠隔診察も本格実施される計画だ。

 両島では昨年2月、奄美大島から新聞や医薬品を無人機のドローンで運ぶ事業も始まった。その飛行を支えるのも衛星で、ドローンは災害時には被害状況の把握に使われる。

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 スマートフォンの位置情報、リアルタイムで雨雲の動きを確認できる雨雲レーダー-。衛星は既に住民生活に欠かせないインフラとなっており、農業や経済活動での活用も広がる。

 農業指導員の不足に悩む青森県では19年から、衛星画像を使った米の生産支援が本格的に始まった。水田ごとに適正な収穫時期を予測。食味の目安となるタンパク質含有率や土壌の状態も確認し、効率的な生産指導に生かしている。同県産業技術センターは「指導員や農家の負担軽減とともに、品質の向上につながっている」として、新機能の追加も計画する。

 衛星は、トラクターの自動運転や好漁場予測、水道管の漏水リスク管理などにも使われている。

 22年の衛星の製造数は米国1786機、中国139機に対し、日本は3機にとどまる。国は衛星データの活用をさらに広げ、国内での人工衛星の製造数も増やしたいとしている。

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 「気軽に宇宙を活用できるようにし、生活や社会をより豊かにしたい」。宇宙新興企業アークエッジスペース(東京都)の福代孝良代表(49)は、数年後には年間100機以上の超小型衛星を生産できる体制づくりを目標に掲げる。

 同社の主な超小型衛星は、縦10センチ、横20センチ、高さ30センチ。海洋観測や地球汚染のモニタリング、位置情報などに活用できる。

 同社は鹿児島市のIT企業リリーと共同で、森林状況の把握など林業作業者の負担軽減に向けたアプリケーション開発にも取り組む。福代代表は「衛星は、都市部よりも地上の通信インフラが整っていない地域や人が入りづらい森林などで、より活用の幅が広がる」と指摘。「鹿児島で盛んな農林水産業などでの活用を広げたい」としている。

 ■宇宙豆知識「衛星の打ち上げ」

 近年は低コストな衛星を複数運用し、高速、大容量、高頻度な通信・観測サービスを提供する「衛星コンステレーション」が増えている。代表的なのが米スペースXの衛星インターネットサービス「スターリンク」だ。2022年に世界で打ち上げられた衛星や探査機は2368機。主に衛星が増えた影響で、10年前の約11倍となっている。

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