衛星データ活用のためのソフトウエアを開発するIT企業リリーの担当者=鹿児島市
世界的な宇宙開発競争が激しくなる中、事業主体は官から民主導へ急速に移行している。国内でも民間企業によるロケットや衛星開発が相次ぐ。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の二つの射場があり、日本の宇宙開発を長年支えてきた鹿児島県だが、衛星活用や民間企業の参入はまだ一部に限られる。急成長が見込まれる宇宙産業を地域振興につなげるための課題を探る。(連載「かごしま宇宙新時代」②より)
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種子島宇宙センター(南種子町)から打ち上げられ、2024年1月に世界初の月面ピンポイント着陸に成功した探査機「SLIM(スリム)」。月面のスリムは、分離された超小型変形ロボット「SORA-Q」が撮影した。おもちゃメーカーのタカラトミーや宇宙航空研究開発機構(JAXA)が共同で開発した。
かつて官中心だった国内の宇宙産業には、大手や異業種企業の参入が相次ぐ。民間のSPACETIDEによると、トヨタや京セラなどその数は24年9月時点で136社。また、宇宙参入を目的に設立された新興企業も108社に上る。
35年の宇宙産業の世界経済規模は、23年の2.8倍の約260兆円に達するとの予測もある。国によると、この成長率は人工知能(AI)などで好調な半導体産業を上回るとされる。
宇宙を活用した経済や安全保障の変革は、世界中で進む。国は、その変革を日本がリードできるかどうかが、「国の存立や繁栄に大きく左右する」とする。
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光ディスク修復装置シェア世界一で、社員約50人の電子機械器具メーカー「エルム」(南さつま市)は、新たな事業の柱に宇宙産業を位置付ける。同社は、地球の周囲を回る衛星を追尾してデータを送受信するパラボラアンテナを低価格で製作。既に40を超える大学や企業に納入し、現在は移動式の研究を進める。
衛星に搭載し地上にデータを送受信する通信機器の開発も始めた。担当するジョン・セドリック・オバッグさん(42)は「会社の技術を生かして、ビジネスチャンスをさらに広げたい」と意気込む。
鹿児島市のIT企業リリーは、膨大な衛星データを漁業や林業者が利用しやすいようにするためのソフトウエア開発に注力する。JAXAの射場整備などを担ってきた同市の飛鳥電気は、和歌山県串本町に誕生した民間ロケット発射場の地上設備などに携わる。
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県が昨年実施した県内企業へのアンケートによると、宇宙産業への取り組み実績があるのは13社で、12社が関心を持つ。二つの射場があり、宇宙開発を長年支えてきた鹿児島だが、県新産業創出室は「軸となる企業はまだなく、関心も高まっていない」とする。
宇宙産業参入の敷居を下げようと、県は25年度から専門家による参入支援に取り組み、10月には企業が集う九州宇宙ビジネスキャラバンを県内で初めて開く。
県新産業創出室は「成熟前の今が宇宙産業に参入するチャンス」とみる。「地域振興につなげるためにも、射場があり宇宙に近いだけでなく、ビジネスとして宇宙を活用する県への転換を進めたい」としている。
■宇宙豆知識「官から民への転換」
国は、2024年度から10年間で総額1兆円規模となる「宇宙戦略基金」制度を設け、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と連携しながら企業や大学による宇宙分野の技術開発を後押ししている。宇宙ビジネスの創出を主体的、積極的に推進する「宇宙ビジネス創出推進自治体」には現在、鹿児島県など11道県2市が選定されている。