「カイロス2号機」の打ち上げを見に来た人でいっぱいになった見学場=2024年12月、和歌山県那智勝浦町
世界的な宇宙開発競争が激しくなる中、事業主体は官から民主導へ急速に移行している。国内でも民間企業によるロケットや衛星開発が相次ぐ。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の二つの射場があり、日本の宇宙開発を長年支えてきた鹿児島県だが、衛星活用や民間企業の参入はまだ一部に限られる。急成長が見込まれる宇宙産業を地域振興につなげるための課題を探る。(連載「かごしま宇宙新時代」③より)
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2024年12月、和歌山県串本町から小型ロケット「カイロス2号機」が打ち上げられた。軌道が乱れ、民間初の衛星投入とはならなかったが、大人3000円の見学場には、2回の打ち上げ延期分を含め延べ約8500人が訪れた。
同県那智勝浦町にある見学場では、地元店による衛星を模したカステラや高校生が作る地元食材を使ったカレーの販売、観光地の映像紹介があった。周辺の宿泊施設は満室が相次いだ。
カイロスを開発したスペースワンは、20年代に年間20機の打ち上げを目標とする。世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の資産がある同町の担当者は「今後は宇宙も新たな観光資源の柱にしていきたい」と話す。
国は30年代前半までに、国内の年間打ち上げ能力を官民で約30機確保する計画だ。射場があれば観光客が集まり、宇宙関連企業の誘致も期待できる。射場を官民一体で整備した北海道大樹町や宇宙港の誘致を進める大分県など、宇宙産業を地域振興につなげようとの取り組みは全国で進む。
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開設63年になる肝付町の内之浦宇宙空間観測所ではこれまで、400機以上のロケットが打ち上げられてきた。現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「イプシロンS」の開発難航を受け、打ち上げ数は減少。24年度は小型の観測ロケット1回にとどまる。
肝付町は、「宇宙のまち」を地域振興につなげようと、全国の学生らが研究や実験をする拠点づくりに取り組む。昨年6月の千葉工業大学を皮切りに、九州工業大学、和歌山大学とも包括的連携協定を締結。これまではなかった学生向けの発射台も新しくできた。
千葉工大は5月4日、同町から初の小型ロケットを打ち上げた。30年代の衛星の軌道投入を目標にする和田豊教授(43)は、学生時代に同観測所からの打ち上げに携わった。「恩返しのためにも肝付町の活性化に貢献していけたら」と話す。
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ロケット打ち上げ時には、住民や漁業者の避難などの協力が不可欠だ。町全体で長年支援してきた肝付町には民間企業も注目する。
小型ロケットを開発するロケットリンクテクノロジー(神奈川県)の森田泰弘社長(67)も同観測所とは縁が深く、「内之浦から打ち上げたい」と話す。気球からのロケット打ち上げに取り組むアストロエックス(福島県)も、気球の基地の一つに同町も検討する。
肝付町は、同観測所から民間ロケットも打ち上げられるようにする民間開放を国に要望する。永野和行町長(74)は「実現すれば打ち上げ数がさらに増え、関連産業の誘致などにより、大隅半島全体の活性化につながる」と期待する。
■宇宙豆知識「ロケットの打ち上げ回数」
国によると、2024年の打ち上げ成功回数は世界で253回。うち米国153回、中国66回、日本は5回となっている。日本の政府衛星はほとんど自国のロケットで打ち上げられているが、商業衛星は自国のロケットに余裕がなく海外に依存する状況が続く。13年~22年に打ち上げられた27機は全て海外からだった。