「さすが古参」の人気と集客、でも運営は曲がり角…「かごしま遊楽館」開設30年、売上ランク10位以内でも安心できない理由

2025/05/31 15:30
開設30年を迎えた鹿児島県のアンテナショップ「かごしま遊楽館」=東京・有楽町
開設30年を迎えた鹿児島県のアンテナショップ「かごしま遊楽館」=東京・有楽町
 東京・有楽町にある鹿児島県のアンテナショップ「かごしま遊楽館」は30日、開設30周年を迎えた。自治体アンテナショップの先駆けで、安定した集客力を誇り、首都圏の情報発信拠点として定着している。ただ、近年は賃料高騰などの課題にも直面しており、運営は曲がり角にきている。

 遊楽館はビルの1~3階を県が借り上げて運営している。1階で食品販売と観光案内、2階でレストラン、3階で工芸品展示・即売を展開。JRや地下鉄が乗り入れる有楽町駅から徒歩5分、商業地・銀座からも近い好立地が魅力だ。

 特に2階の「いちにぃさん」は1995年のオープン当初から人気を博す。地域活性化センター(東京)の担当者は「黒豚しゃぶしゃぶは東京でなじみがなかった。レストラン併設型の成功例で、他の店舗に大きな影響を与えた」と話す。

 遊楽館の年間入館者数は長らく40万人台で推移。新型コロナウイルスの流行で一時20万人台まで落ち込んだが、現在は30万人台と緩やかに回復している。売上高は5億円台に戻り、同センターの調査で2023年度は上位10位以内に入る。

 1月に南さつま市出身の妻を亡くした男性(67)=茨城県取手市=は、あく巻きやげたんは目当てに1階「さつまいもの館」を訪れた。「ネットはセット売りが基本で、バラ売りがある実店舗はありがたい。なくなったら困る」

 1、2階が比較的順調な一方、関係者は3階への誘客に苦心している。来館者数は全体の1割にも満たない。エレベーターを使用する必要があり、「オフィスだと思われている」とスタッフの一人。アンテナショップ巡りが趣味の男性(64)=横浜市=は「遊楽館に10回以上来ているが、3階の存在を知らなかった。食品と工芸品は一緒の方が見やすい」と語る。

 県は24年度、3階の誘客促進に向け550万円の予算を計上。薩摩焼の手びねり体験や焼酎の飲み比べなど、委託事業で5回の体験型イベントを実施した。アンケートで延べ450人の約9割が「とても満足」と回答。県東京事務所は「今後の参考にしたい」する。

 近年は賃料の高騰も重くのしかかる。11年ぶりに値上げを打診され、25年度は前年度比700万円アップの1億1497万円に上がった。1階は45%、2階は100%をテナントが負担するとはいえ、高騰が続けば運営のあり方の検討が不可避になってくる。

 県はこれまでテナントの入れ替えなどは行わず、従来型の物販・飲食機能に特化した運営を続けている。県販路拡大・輸出促進課の大山剛課長は「運営は好調で情報発信の拠点として大きな役割を果たしている。現時点で改装や移転などの予定はない」としている。

■各自治体、ファン増へ知恵と工夫を凝らす

 自治体アンテナショップの実態調査を手掛ける地域活性化センターによると、東京都内には2024年度時点で61の独立店舗がある。近年は改装や移転が目立っており、各自治体は新たなファンの獲得に向けて知恵と工夫を重ねている。

 新型コロナウイルスの流行を契機に、有識者会議などを通じて運営のあり方を検討する動きが出ている。同センターの調査では、改装や移転が22年度から急増。22年度は6店舗、23年度は7店舗で、24年度も5店舗(予定)に上った。

 日本橋にある三重県の「三重テラス」は開設10周年の23年9月に改装オープンした。イベントスペースにコワーキング機能を新設。「日本酒」や「スイーツ」など特定のテーマでファンが定期的に集まる「三重テラス部活動」も始動させ、人々の交流を促す。

 新潟県の「銀座・新潟情報館 THE NIIGATA」は24年8月、老朽化で23年末に閉館した「表参道・新潟館ネスパス」の後継施設として移転オープン。物販フロアでは、魚沼産コシヒカリを使用したおにぎりを手作り販売するほか、都内最大規模の清酒の試飲コーナーも設けている。

 アンテナショップに詳しい武蔵野美術大学の岩嵜博論教授は「新たな顧客体験を取り入れたり、交流を促したりし、地域と関わる『関係人口』の創出に力を入れる自治体が出てきている」と指摘。「人口減少が進む中、新たな時代に即した変革が地方の持続的発展につながる」と話す。

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