事業者の負担大だった交通系ICカードの積み増し加算分、今秋で廃止へ 「敬老パス」の見直しも不可避か

2025/06/09 11:30
市バスに設置されている交通系ICカード(左)とクレジットカードの決済端末機=鹿児島市
市バスに設置されている交通系ICカード(左)とクレジットカードの決済端末機=鹿児島市
 鹿児島県内の路線バス事業者が苦境にあえいでいる。「ドル箱路線」で稼ぎ、地方の赤字路線をカバーする経営モデルは2000年代初めの規制緩和で崩壊。利用低迷が続く中、運転手不足対策、車体更新、サービス向上と取り組むべき課題は少なくない。公共交通機関としての在り方を模索する事業者の本音や苦悩を紹介する。(連載かごしま地域交通 第3部「事業者の苦悩」⑥より)

 鹿児島市内を中心に、バス運賃の支払い方法でクレジットカード(クレカ)が存在感を増している。市バスは2024年3月、南国交通は25年2月に導入。南国と鹿児島交通が共同運行する鹿児島市内-鹿児島空港間の連絡バスも24年4月に全便で使えるようになった。

 県内路線バスでは、市交通局や南国交通などの「ラピカ」と鹿児島交通の「いわさきICカード」の二つの交通系カードが浸透している。利便性を高めるため、JRの「Suica」(スイカ)のような全国交通系ICカードへの転換を求める声もあった。初期投資と維持費が大きい上、事業者間の足並みもそろわず導入に至らなかった。

 スイカなどが使えず戸惑っていた出張者や観光客にとって、クレカ決済ができるようになりサービス向上が図られた。導入した事業者も「全国系を求める利用者からの声はかなり減った。万国共通のクレカなら訪日客需要も取り込める」と説明する。

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 地元交通系カードは積み増し時に1割加算される仕組みがある。共通回数券時代の名残で導入開始の05年から続く。所有者のお得感が強い独自のサービスは今年10月に廃止となる予定だ。

 「利用者減、新型コロナウイルス禍、運転手不足と経営状況が悪化する中、事業者負担のサービスが重荷となった」。1月、民間バス事業者が鹿児島市・市議会へ提出した廃止要望書には地域交通の窮状がつづられていた。

 積み増しの加算分は各事業者が負担し、交通系カード利用者が多い事業者ほど負担額は増える。市バスの23年度運送収益(貸し切り除く)は8億7700万円。1割加算がなければ3100万円増の9億800万円だった。鹿児島交通は6000万円、南国交通は4000万円の負担で、担当者は「収益と比較してみても決して小さな額ではない」。

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 地元交通系カードを巡り、多くの関係者が「見直しは避けられない」と指摘するサービスがある。鹿児島市が市内在住の70歳以上を対象に運賃を補助する「敬老パス」だ。全国各地の自治体が高齢者の外出促進や社会参加を目的に独自の支援を打ち出す中、県内では鹿児島市のみ事業者負担が生じている。

 市長寿支援課によると、敬老パスは1967(昭和42)年に市バスと市電で始まり、その後、民間事業者にも広がった。高齢者は無料で利用でき、運賃は市と事業者が半分ずつ負担していた。

 高齢化が進みパスの負担額は当初の140倍超に増えたため、2005年のICカード導入を機に市、事業者、利用者が3分の1ずつ受け持つ形になった。23年度までの累計発行数は11万5000枚。同年度バス事業者の負担額は計2億5000万円と推定される。

 「移動手段のない高齢者の生きがい対策として今後も続けたい」と市は説明するものの、70歳以上人口は25年4月の13万3400人から50年に15万6600人とピークに達する見通しだ。ある民間事業者の幹部は「市民サービス分まで負担するのは経営上、限界に近い」と漏らした。

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